多摩市の「避難所混雑状況確認システム」(「VACAN-Maps」より)

快適性の追求で避難のあり方が変わる

避難所の混雑状況可視化、モビリティ(移動性)導入…

●避難所の劣悪環境の打破に向けて、避難のイノベーション

 本紙は先の2020年9月15日号特別企画で「避難所新時代、多様化へ」と銘打って、「分散避難」、「自宅避難」、「ホテル避難」などをキーワードに、避難のあり方、より”快適な”避難所とはなにかに向けて課題提起した。

>>WEB防災情報新聞:避難所の多様化 災害リスクの低い、好環境の避難所を求めて(2020年9月17日付け)

 近年まで、大雨や地震時に自治体から避難勧告・指示が出たときは、まず避難所へ避難、そしてその避難率が低いということが課題だった。その後、垂直避難が選択肢に入り、自分がいる場所が安全であれば在宅避難で、という流れになった。
 2020年台風10号(9月上旬)では、新型コロナウイルス感染症の蔓延下での避難となって、避難の態様はさらに進んで、ホテルや親戚・知人宅、安全な自宅、そして車避難などに分散して避難する「分散避難」が初めて大規模に実施された。国もまた、コロナ下の避難のあり方として、ホテルや親戚・知人宅、自宅などを含む分散避難を検討・支援するように自治体に向けて通知した。これを受けて、コロナ対策で避難所の収容人数を減らした自治体は、住民に分散避難を繰り返し呼びかけたのだ。「分散避難」についてまだ課題は多くあるものの、この流れはまさに避難先の多様化をもたらす「新しい避難様式(ニューノーマル)」
として定着しようとしている。

P4 1 車中泊の選択理由(セゾン自動車火災保険 資料より) - ニューノーマルとしての<br>「分散避難」
車中泊の選択理由(セゾン自動車火災保険 資料より)

 かねてからの大きな課題であった避難所の劣悪環境(体育館にごろ寝、トイレ・衛生環境の劣化、プライバシー・女性視点の欠如の問題など)を、新型コロナが一挙に、大きく変えようとしているのかもしれない。そして、この流れを受けて、ITC(情報通信技術)を活用した各種サービスや、モビリティ(移動性)を活かしたコンテナ型宿泊施設や診療所(簡易ホテル、医療関連の簡易診療所、休息所など)も、平時利用も含めてイノベーションが起こっている観がある。その事例をいくつか見てみよう。

【避難所の混雑状況が事前にわかる――「VACAN」】

 東京都多摩市はこの夏、避難所の混雑状況可視化のためのシステム「VACAN」導入について、株式会社バカン(東京都千代田区)と協定を締結した。「VACAN」は、AIとIoTを活用して災害時の避難所の混雑状況をリアルタイムにホームページ上に掲載することができるシステムで、コロナ禍での複合災害時の避難所情報として行政にはもちろん、利用者側にも有効なツールとなる。

>>東京都多摩市:株式会社バカンとの協定締結について

P4 2 多摩市の「避難所混雑状況確認システム」(「VACAN Maps」より) - ニューノーマルとしての<br>「分散避難」
多摩市の「避難所混雑状況確認システム」(「VACAN-Maps」より)

 バカン社はこのところ、同種の協定を立て続けに自治体と結んでいる。直近では10月26日に福島県いわき市と、同27日には千葉県南房総市と協定締結した。いずれも配信はバカンが提供する「VACAN」を通じて行われ、インターネット上で確認できる。
 ちなみにバカン社は経済産業省が選定する官民による支援プログラムJ-Startup 2019選定企業。IoT、AIを活用してレストラン街やカフェ、トイレ、会議室、社員食堂などの空き状況をセンサーやカメラで自動検知し、デジタルサイネージやスマートフォンに配信するサービスを提供している。

>>株式会社バカン

【コンテナホテル「レスキューホテル」、
 ムービングハウス「防災・家バンク」】

▼「レスキューホテル」

 株式会社デベロップは、コンテナホテルの移動性やフレキシビリティを活かし、平時にはホテルとして運営される客室を、災害など有事の際に被災地などにすみやかに移設する「レスキューホテル」として開発・提供する。「レスキューホテル」には、車輪のついたシャーシ上にコンテナを配置したまま運営される「車両型」と、コンテナをシャーシから下ろし、地面に固定して運営される「建築型」がある。

P4 3 レスキューホテル - ニューノーマルとしての<br>「分散避難」
デベロップ社の「レスキューホテル」

 「レスキューホテル」は、日本国政府、長崎県、クルーズ船会社からの要請を受け、2020年4月、長崎に停泊中のクルーズ船内の新型コロナウイルス感染拡大防止を目的に、千葉県成田市と栃木県足利市から全50室を長崎に移送、医療機関関係者や軽症者等を受け入れる仮設宿泊施設として活用された。
 「レスキューホテル」は平時は「ザ・ヤード」と呼ばれる建築用コンテナモジュールを利用した1棟1客室型の宿泊施設として活用されている。1室13m²とコンパクトだが、隣室と壁を接しないので防音性とプライバシー確保に優れ、上質なベッド、ユニットバス、冷凍庫付冷蔵庫、電子レンジ、空気清浄機を全室装備するなど、長期の連泊にも対応する。2020年10月現在、デベロップでは栃木・群馬・千葉・茨城・愛知で21拠点667室を配備、2021年には北海道を除く46都府県への出動が可能となるよう計画中だ。

>>デベロップ:レスキューホテル

▼「防災・家バンク」

 「防災・家バンク」とは、ムービングハウスを用いた応急仮設住宅の普及と社会的備蓄をめざす官民連携の取組みだ。トレーラーハウスやコンテナハウスとは異にしつつ(国際規格の海上輸送コンテナと形状・サイズは同じに設計)、「完成した一般住宅を応急仮設住宅として利用する」というアプローチで、災害時に迅速に被災地への設置を可能にした新しい形の応急仮設住宅を言い、その形状からは移動式木造住宅だ。

P5 1 防災家バンク - ニューノーマルとしての<br>「分散避難」
コンテナ改造ホテル「防災家バンク」

 ムービングハウスは、東日本大震災をきっかけに開発が進み、移動式住宅関連の企業約40社が加盟する日本ムービングハウス協会(北海道千歳市)が「防災・家バンク」の名のもとに推進役を担っている。同協会によれば、「防災・家バンク」とは、自治体や企業などが遊休地にこのムービングハウスを設置し、簡易ホテルや宿泊研修施設等として利用するいっぽう、災害時にはすぐに被災地に輸送し、災害救助法に基づく応急仮設住宅として被災自治体に有償で貸し出すプロジェクトで、いま各地でこの設置・検討が始められているという。

>>日本ムービングハウス協会:「防災・家バンク」

〈2020. 11. 08. by Bosai Plus

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