検討対象領域

[ 齋藤徳美氏 特別寄稿 ] 
千島海溝・日本海溝、巨大地震の津波 公表

齋藤徳美(さいとう とくみ)
岩手県東日本大震災津波復興委員会・総合企画専門委員会委員長
岩手大学名誉教授

 4月21日、千島海溝・日本海溝沿いでマグニチュード9クラスの地震が起きた場合、本県沿岸北部には東日本大震災の場合よりも大きな津波が襲来するとの内閣府有識者会議の検討結果が公表された。これに対して、岩手県沿岸3市長が浸水域想定の非公表を求めたことに批判的な報道がなされている。
 いうまでもなく、最大の想定は、その対策、避難や町づくりの基礎となるもので、意義は大きく公開すべきであることは言を待たない。一方で、2011年東日本大震災で、湾口防波堤の修復、防潮堤の整備、土地の嵩上げなど安全の確保のための事業がいまなお進行中である。

 その基本になる考え方は、国土交通省が数十年から百数十年に一度の頻度で襲来する津波をレベル1(L1)、千年に一度の津波をレベル2(L2)と統一的に規定し、L1の津波を防御する高さの防潮堤を整備するというものである。L2津波は、防潮堤で防御できず、避難など複合的な防災対応を行うことになるが、その襲来の頻度は極めて低いと受け止められている。
 この基準に従って、三陸沿岸のすべての防潮堤は「千年に一度」とされる東日本大震災の津波高さより低い。

検討対象領域
検討対象領域

 そうした中で今回の想定は、国交省のL2に相当する高さの津波が300~400年周期で襲来し、しかも、いま切迫した状況にあるという。国が9年余の年月と膨大な国費をかけてL1対応の防潮堤を統一的に建設し、なお整備中であるなかで、短期間にL2津波が襲来し、しかも、その防潮堤がすべて破壊されるとする試算は、これまでの安全な町づくりの施策と矛盾しないか。住民に理解を得る説明がしにくいとの市長たちの困惑は当然ではないかと思える。地元で津波防災の一線に立つ研究者の一人としても違和感を禁じ得ない。

 税金を払っている住民からすると、国土交通省も内閣府もお上であり、何よりも東日本大震災の復興は国策として行われているはずである。整合しない予測を省庁がばらばらに出されては現地は困惑させられるだけである。東日本大震災以降、津波堆積物の調査などにより新たな科学的知見が得られ、想定の精度が向上したのなら、これまでの対応との整合性をも計り地域に丁寧に説明することが必要ではないか。必要なら、基本方針の変更も検討されるべきではないか。

「想定される沿岸での津波の高さ(青森県以 南)」より
「想定される沿岸での津波の高さ(青森県以南)」より

 鑑みれば、これまでも内閣府は、一方的に上から目線で、津波浸水予測を公表してきた。2012年の南海トラフの津波予測では、東南海から四国に数分で巨大津波が襲う、例えば四国の黒潮町には8分で34m、和歌山県串本町には2分で18mと発表。逃げるすべもないと地元住民にはあきらめの空気すら漂ったと聞く。国は対策を今後検討するとしたが、本来、日本国の研究者と省庁が英知を絞った防災の具体策と必要な財政措置がセットで示されるべきではないか。
 「津波の規模は示した、対策は現場の責任で」とするなら、それは霞が関の官僚の究極の責任転嫁ではないか。住民の命を守るのは自治体の責務であるが、国民の命を守るのは国の責務であるのである。

 今回もまた、浸水予測のみが一方的に公表され、国が何をなすのかは一切示されていない。東日本大震災の復興の理念も踏まえ、地元自治体との開襟の協議のもとに、住民の理解を得られる形での情報開示を国が行うことを強く要望したい。
 なお、蛇足ではあるが、三陸沿岸では、湾によっては1611年慶長三陸津波や1896年明治三陸地震津波の際にも東日本大震災津波に匹敵する津波が襲来している。今後も千年に一度ではない短い周期で、建設中の防潮堤では防げないL2クラスの津波が襲来する可能性があり、防潮堤に頼って安全は確保できないことを認識すべきと筆者は訴えてきた。L1,L2の全国画一的な基準に縛られてはいけないことも、この機会に改めて記しておきたい。

〈2020. 05. 15. by Bosai Plus


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