NEW-YORK-TIMES「Coronavirus-Could-Overwhelm-U.S.-Without-Urgent-Action」より

“ステルスウイルス”COVID-19が促す
意識変革

【 われら同時代、初めて経験する世界同時危機を生き延びる 】

砦で囲んでまちをつくった欧米、自然と共に生きた東洋、
 それぞれの感染症対峙法は

 COVID-19感染症の世界的流行――パンデミックはついに、世界を席巻し始めた。世界の感染者数は累計72万人を超え、死者は約3万4千人となっている(米国ジョンズ・ホプキンス大学まとめ、3月30日現在 *上画像参照)。中国から発したCOVID-19は、欧米ではまず、イタリアで「オーバーシュート」(感染者急増/約9万8千人)し、その後、スペイン(約7万9千人)、ドイツ(5万3千人)、フランス(約4万人)、英国(約2万人)などへ広がった(外務省まとめ、3月30日現在)。
 いっぽうわが国では目下、感染者数は2千人を下回っており、欧米主要国と比べれば“抑えられている”いっぽう、「オーバーシュート」を避けるための「非常事態宣言」がいつ発せられるか、また東京都で、あるいは首都圏で「ロックダウン」(都市封鎖)が実施されるかどうかが焦眉の課題となっている。

P1a NEW YORK TIMES「Coronavirus Could Overwhelm U.S. Without Urgent Action」より - 感染しない、させない― 内なる“ロックダウン”(自衛)
米国ニューヨーク・タイムズ紙がジョンズ・ホプキンス大学と連携・公表した米国での感染予測マップより(NEW-YORK-TIMES「Coronavirus-Could-Overwhelm-U.S.-Without-Urgent-Action」)。この予測では「対策をなにもしない場合」は左端の図、「なんらかの対策をとる」で中の図、「厳しい対策をとる」で右端の図となる
P1b Johns Hopkins Univ「COVID 19 Global Cases」より - 感染しない、させない― 内なる“ロックダウン”(自衛)
ジョンズ・ホプキンス大学がとりまとめるCOVID-19感染ダッシュボードより。同大学の研究センターのデータは世界の行政・関係機関、メディアに引用されている

>>米国での感染予測マップ(NEW-YORK-TIMES「Coronavirus-Could-Overwhelm-U.S.-Without-Urgent-Action」)

>>ジョンズ・ホプキンス大学「COVID-19感染ダッシュボード」

 ところで、「パンデミック」(世界的大流行)はもとより、「オーバーシュート」(Over Shoot)や「ロックダウン」(Lock Down)、「クラスター」(Cluster:感染者集団)、「アウトブレイク」(Outbreak:突発的発生)、さらには「エビデンス」(Evidence:臨床結果・効果)など、わが国の関係機関や専門家、それを受けてマスコミが使うCOVID-19関連のカタカナ表記(多くは英語)の用語に、わかりにくいという声やなぜ日本語での用語にしないのかという批判があるようだ。
 確かに、耳慣れないカタカタ外来語に拒否反応を示す人たちがいることはわかるが、逆に英語でClose Contactという中学校で学ぶ英語表記が日本語では「濃厚接触」で、コロナウイルスは「冠状病毒性肺炎」となるなど、日本語化によって難解になる例もある。

 理屈を言えば、「パンデミック」(Pandemic)は、ギリシア語で「すべて」を意味する「pan」と、「人びと」を意味する「demos」にあり、日本語では「感染爆発」をあてることもある。いっぽう「オーバーシュート」は感染症用語ではないが、原義は「測定値が目標値を超える」ことで、「感染爆発」とはニュアンスが異なる。
 さらに「ロックダウン」は「“内側から”ドアをロックすること」、「クラスター」は「ぶどうなどの房」、「アウトブレイク」は「突発的発生」、「エビデンス」は「治療効果の検証データ」というように、言葉の原義を探れば、これらの用語の“緻密さ”で腑に落ちるのではないか。とくに「ロックダウン」は、日本語の「封鎖」だと外から(管理する側が)ロックする印象が強いが、英語の原義では“内側から鍵をかける”、つまり都市のロックダウンの場合は「外からの侵入を防ぐ」という意味であることは示唆に富む。

 カタカナ語(外来語)にはそれなりの意味の裏づけがあり、欧米ではそうした意味の情報共有ができているということだろう。日本語に翻訳することでその意味合いがややずれるのであれば、感染症が国境をやすやすと乗り越える現代、世界と意味の情報共有を図るために、そうした言葉を輸入するほかないのではないか(明治以来、日本人はそうしてきた)。
 そこで「ロックダウン」だが、西洋文明は歴史的に、自然の中に「壁」(砦)を築き、壁の内側に生活の場(都市)をつくってきた。その壁を破ろうという外敵、あるいはまさに疫病など、未知なる恐怖が襲ってきたときに「ロックダウン」するのだという。
 いっぽう東洋文明は、自然と共存しながら生きていこうとする――とくに豊かな自然に恵まれながらも災害や飢饉、疫病の歴史が繰り返された私たち日本人は、「内側」にすでにそうした「災異」を内包しており、今回の感染症流行への対応についても、善かれ悪しかれ、パニックに陥らない、あるいは“鈍感”だという見方がある。

P2 1 新型コロナウイルス感染症患者の発生状況(マップ/厚生労働省HPより) - 感染しない、させない― 内なる“ロックダウン”(自衛)
国内で報告された新型コロナウイルス感染症の患者数を都道府県別に地図上に表示したもの。日付は確定日。患者数には、チャーター便、クルーズ船における患者数は含まれていない(厚生労働省HPより)

>>厚生労働省「新型コロナウイルス感染症 国内事例」

 そうした見方の適否は別として、日本でのCOVID-19の流行は「オーバーシュート」直前の危機だとされ、「4月1日には非常事態宣言が発せられる」という風説がSNS上で飛び交ったという。本紙は今回の感染症について当初は「賢く経過観察」との対応姿勢を打ち出していた。それは間違ってはいなかったと振り返る。そして本記事では「感染しない、させない――内なる“ロックダウン”(自衛)」とした。
 今後の展開に予断は許されないが、読者とともに、「内に災異を内包していることを意識しつつ、感染しない、させない」を心がけたい。

P2 2 換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まることを避けて(出典:首相官邸HPより) - 感染しない、させない― 内なる“ロックダウン”(自衛)
「3つの密」〜換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まることを避けて(出典:首相官邸HPより)

●3つの密(密閉空間、密集場所、密接場面)の回避
 =社会距離戦略」(Social Distancing)

 COVID-19のパンデミックはわが国はもとより、諸外国にもいろいろな対応・反応をもたらしている。今後の感染動向の予測がつきにくいことからか、また収束への見通しがつけられる治療薬・ワクチンの開発・実用化には1年以上要すると見られることから、専門家・知識人・文化人はあえて短期的な予測を避け、中長期にわたる社会の変化を占っている。
 そのなかで数例をあげると、米国の研究者ギデオン・リッチフィールド氏の論説で、米国ではいま、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために人と人が接触する機会をできるだけ減らす「社会距離戦略」(Social Distancing)を実施しているが、その長期化で、「普通の生活」にはもう戻れないかもしれないというものがある。

>>MIT TECH:Gideon Lichfield 「新型コロナ後」の世界はどう変化するか?(日本語版)

 わが国では「3つの密(密閉空間、密集場所、密接場面)の回避」が新たなキーワードになりつつあるが、リッチフィールド氏は、「感染拡大を止めるには、仕事、運動、社交、買い物、健康管理、子どもの教育、家族の世話など、ほぼすべての行動様式を根本的に変える必要がある」とする。そして米国の社会距離戦略とは、「すべての世帯が学校、職場、世帯外の人との接触を75%減らすこと」という定義があって、これは、すべての人が社会的接触を最小限に抑えるようにできる限り努力し、接触機会を全体として75%減らすという意味だという。

 パンデミック下の暮らしは、短期的には、レストラン、カフェ、バー、ナイトクラブ、ジム、ホテル、劇場、映画館、アートギャラリー、ショッピングモール、クラフトフェア、博物館、ミュージシャンや他のパフォーマー、スポーツ施設(およびスポーツチーム)、会議会場(および会議主催者)、クルーズ会社、航空会社、公共交通機関、私立学校、デイケアセンターなど、多くの人が集まることを前提としているビジネスに大きなダメージが及ぶ。
 さらに、子どものホームスクールを強いられる親、新型コロナウイルスの感染を心配しながら高齢の家族の世話をする人、虐待されている人、収入の変動に対応できる経済的余裕がない人にストレスがかかる。
 いっぽう、例えばジムは家庭用フィットネス器具やオンライントレーニングセッションの販売を開始(すでに「シャットイン(家に閉じこもる)経済」と名づけられている分野が存在)、また、二酸化炭素排出量の少ない移動、地産地消型サプライチェーン、徒歩と自転車での移動の増加など、いくつかの習慣が変わるかもしれない。

 しかし、多くのビジネスや生活で生じる混乱には対応しきれなくなるので、最終的には、疾病リスクのある人を識別する高度な手段を開発し、疾病リスクのある人を「合法的に」区別することで、再び安全な人付き合いが可能になる。また、COVID-19阻止には間に合わないが、将来のパンデミックに役立つパンデミック対応部隊を用意し、医療機器、検査キット、医薬品の生産能力を即座に増強できるようにする医療システムの改善が求められる……と。

P3 1 COVID 19の国別発生状況(NEW YORK TIMESサイトより) - 感染しない、させない― 内なる“ロックダウン”(自衛)
COVID-19の国別発生状況(NEW YORK TIMESサイトより)

>>NEW YORK TIMES「The Coronavirus Outbreak」

P3 2 COVID 19の国別発生数(BBCサイトより) - 感染しない、させない― 内なる“ロックダウン”(自衛)
COVID-19の国別発生数(BBCサイトより)。アニメーションで各国の発生数の推移も見られる

>>BBC:Coronavirus pandemic: Tracking the global outbreak

感染対策を、通勤ラッシュ解消から縦型組織の打破、
 男女共同参画推進などの起爆剤に?

 また、著書「サピエンス全史」で人類の発展の歴史をひもといたイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ハラリ氏が日本経済新聞に寄稿し、新型コロナウイルスの脅威に直面する世界に今後の指針を示している。

>>日本経済新聞:コロナ後の世界に警告 「サピエンス全史」のハラリ氏

 このなかでハラリ氏は、「人類はいま、世界的な危機に直面している。おそらく私たちの世代で最大の危機だ。私たちや各国政府が今後数週間でどんな判断を下すかが、今後数年間の世界を形作ることになる。その判断が、医療体制だけでなく、政治や経済、文化をも変えていくことになるということだ」として、グローバルな視点から持論を展開している。

 いっぽう、大阪大学の安田洋祐准教授は「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、全国各地で様々な動きが起きている」として、朝日新聞に「新型コロナウイルスは必ず終息する。コロナ後の日本社会は、コロナ前の状態には戻らないし、戻るべきでもない」とし、「日本の組織が生まれ変わり、中の人びとがよりいっそう輝くことができる。そんなきっかけになることを強く願っている」との論説を展開している。

>>朝日新聞:日本人と会社、進化の機だ 安田洋祐(あすを探る 経済)

 安田氏は、感染リスクを減らす対策として企業が主導する時差通勤やリモートワークが大都市圏では通勤ラッシュの混雑緩和、在宅でも参加できるオンライン会議を可能にしたとし、「リモートワークが広がれば、仕事のやり方だけでなく、進め方も変わる。たとえば企画を通す場合には、人間関係や根回しであいまいに決まるのではなく、エビデンス(証拠)や理屈がより重視されるようになるだろう。企画内容と直接関係のない間接的なコミュニケーションは対面でないと難しいからだ。
 その結果、ベテラン社員が経験と勘で自説を押し通せなくなる、今まで発言権が弱かった若手や女性の存在感が高まる、といった変化も期待できる」とする。

 まさに、働き方改革や男女共同参画など長年の課題、日本のジレンマを新型コロナ対策は一挙に進める起爆剤となる機会をもたらすかもしれない。

〈2020. 04. 01. by Bosai Plus

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