首相官邸HPより

パンデミック対策も自然災害対策も、
賢く「経過観察」

●「PHEIC」宣言と「パンデミック認定」は異なるが、
 いずれも切迫した“警告”

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が3月11日、世界の感染者数が12万人となったことを踏まえ、新型コロナウイルス「COVID-19」について「パンデミック(世界的な大流行)とみなせる」と表明した。WHOがパンデミックと認定したのは2009年に流行した新型インフルエンザ以来11年ぶりとなる。この日はわが国では東日本大震災から9年の日であり、その偶然の符合については、別項で触れることになる。
 これを受けてわが国は3月13日、新型コロナウイルスを「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(後述)の対象に加える(2年以内/政令で対象とする期間を2021年1月31日まで)改正法を可決・成立、同14日の施行となっている。これを受けて、新型コロナの蔓延時などに首相が「緊急事態宣言」を出し、国民の私権制限もできるようになる。

首相官邸HPより - COVID-19と東日本大震災9年
上写真はいずれも首相官邸HPより。上:新型コロナウイルス感染症対策本部(第19回/3月10日)で安倍首相(右から3番目)。下:3月11日に行われた「東日本大震災・総理大臣官邸献花式」

 現在、パンデミックとするか否かの判定基準はないのだが、その背景には、メキシコから世界に広がった2009年の新型インフルエンザでの“反省”がある。WHOは、パンデミックの警戒水準として、疾病の警戒水準が高まるとともに警戒レベルを1フェーズずつ上げ、最後の6フェーズ目で「パンデミック宣言」を行う基準を採用していた。09年のとき、WHOはパンデミックを宣言し、これを受けたわが国を含めた各国政府はワクチン購入や防疫措置に莫大な予算を費やして対策を施したが、恐れられていたほどの死者は出ずに収束に向かった。その結果、WHOの宣言は“空振り”だったとしてWHOは非難を受けることになった。
 この教訓からWHOは、2013年に、それまで用いてきた6フェーズ(段階)の警戒水準を廃止した。WHOは現在、「パンデミック宣言」は同機関の幹部たちの判断に委ねているという。いっぽうわが国では、09年の経験を教訓に2012年、新たな感染症に備えるための新型インフルエンザ等対策特別措置法を施行した。この特別措置法にこのたび、「COVID-19」(新型コロナウイルス)が加わることになったのである。
 ちなみに一般的にパンデミックとされるのはこれまで、インフルエンザでは1918年のスペインかぜ、57年のアジアかぜ、68年の香港かぜ、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)などがあり、パンデミック化を懸念されたものとして、2002年のSARS、12年のMERS、13年のH7N9型インフルエンザなどがある。

>>新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律 (令和2年法律第4号)

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政府広報新型コロナウイルスを含む感染症対策をまとめたチラシより「マスクについてのお願い」

 いっぽうパンデミック認定と似たものに、前述の「PHEIC(読みは「フェイク」)宣言」がある。これは、大規模な疾病発生のうち、国際的な対応を特に必要とするもので、従来は黄熱病、コレラ、ペストの流行を指していたが、新興再興感染症やバイオテロに対応する必要性や、伝染病検知の隠蔽防止の観点から国際保健規則(英語版)が2005年に改定され、原因を問わず国際的な公衆衛生上の脅威となりうるあらゆる事象が対象となっている。
 「PHEIC」は、WHOが定める国際保健規則(IHR)における次のような事態をいう。①疾病の国際的拡大により、他国に公衆の保健上の危険をもたらすと認められる事態。②緊急に国際的対策の調整が必要な事態。これまで「PHEIC」が宣言された事例には、2009年豚インフルエンザA(H1N1)(新型インフルエンザ)、2014年野生型ポリオウイルスの国際的な拡大、2014年エボラ出血熱の西アフリカでの感染拡大、2016年ジカ熱のブラジルなど中南米での感染拡大、2019年エボラ出血熱のコンゴ民主共和国での感染状況がある。

 「PHEIC」宣言により、WHO加盟国(2019年4月現在194カ国・地域と2準加盟地域)は、WHOが主導する「COVID-19」封じ込めや拡散防止対策等に最大限協力することが求められる。WHOは都市や地域、各国の住民の移動に関して勧告する権限を得、各国が講じる公衆衛生措置が科学的に妥当かどうか審査する権限を付与され、加盟国には勧告に従うよう要請ができる。また、医療態勢が脆弱な国に対する支援、ワクチンや治療法、診断方法の開発の促進、風評や誤情報の拡散防止対策、データの共有などで各国を指導する立場となる。

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政府広報新型コロナウイルスを含む感染症対策をまとめたチラシより「マスクについてのお願い」

「経過観察」は“積極的無治療”――市民がパンデミックと向き合うヒント

 今後、「COVID-19」がパンデミックとしてどのような、そしていつまでその感染の威力を示し続けるかは不明だ。本紙は3月1日付け記事「COVID-19と”インフォデミック”」冒頭で、新型コロナウイルス「COVID-19」について、「不意の国難の浮上、ここ1、2週間がヤマ場?」という中見出しを付けた。その後約2週間を経て、情勢は依然として日々刻々新局面を迎えている。私たちはこの“国難”の長期化を予感し始め、危機感の持続に疲労・徒労を感じ始めているように見える。
 その心情の揺れはまさに株価の変動グラフに共振するかのようで、心身不安定なまま免疫力の低下につながり、それがまた「COVID-19」の感染可能性を高めることに通じるかのようだ。ウイルス自体に生存戦略があるとすれば、かなりのしたたかさではないか――
 しかし、私たちはこれまでの各種のパンデミックとの長い闘いの経緯を、人類の歴史的な経験として共有している。「COVID-19」についても、そうした知見をもとに、できるだけ冷静に“経過観察”したい。私たちが病気にかかると医者からよく「様子をみましょう」と言われるが、経過観察とはなにもしないということではない。実はそれは診断に必要なプロセスであり、重要な医療行為の選択肢のひとつだと言う。
 つまり、次は抗菌薬治療か、放射線治療か、化学療法か、手術か――経過観察のなかに治癒に向けた綿密なシミュレーションが盛り込まれているのだ。いわば「積極的な無治療=経過観察」であるならば、市民のパンデミックに向き合う方法として、ヒントが隠されているようではないか。市民の経過観察の生活態度は、感染しない、させない姿勢の維持であることは言うまでもない。

〈2020. 03. 16. by Bosai Plus

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