トヨタの「Woven-Cityイメージ」

「コンパクトシティ」、「ウォーカブル(シティ)」など、
新たなまちづくりに「防災の視点」を

 トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、米国ネバダ州ラスベガスで開催された世界最大の家電技術見本市「CES 2020」(2020年1月7日~10日)で、人びとの暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」建設プロジェクトを発表した。
 同プロジェクトは、2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本株式会社・東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用して、将来的に175エーカー(約70.8万平方m)のまちづくりを進めるもので、2021年初頭に着工する予定。
 今後、さまざまなパートナー企業や研究者と連携しながら、2000名程度の住民が生活を送るリアルな環境のもとで、自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS=マイカー以外のすべての交通手段をひとつのサービスと捉えてつなぐ移動概念)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる実証都市『Woven City』(ウーブン・シティ:網目のように織り込まれたまち)をつくる。

P5 2 トヨタの次世代EV車両「e Palette」 - トヨタの「WovenCity」に 事前防災も織り込みたい
トヨタの次世代EV車両「e-Palette」(広報資 料より)

 プロジェクトの狙いは、人々の暮らしを支えるあらゆるモノ、サービスが情報でつながっていく時代を見据え、このまちで技術やサービスの開発と実証のサイクルを検証することで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることだ。トヨタは、網の目のように道・先端技術が織り込まれ合うまちの姿からこのまちを「Woven City」(ウーブン・シティ)と名付け、初期は、トヨタの従業員やプロジェクトの関係者をはじめ、参画を希望する世界中の企業や研究者などを住ませ、将来的には2000名程度の住民が暮らす都市とすることを想定している。
 『Woven City』では、トヨタらしく、まず、まちを通る道を「スピードが速い車両専用の道」(トヨタの次世代EV車両「e-Palette」など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行)、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存する「プロムナードのような道」、歩行者専用の「公園内歩道のような道」の3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれたまちとする。

 建物は主にカーボンニュートラルな木材で作り、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和やサステイナビリティを前提とする。暮らしを支える燃料電池発電も含めて、インフラはすべて地下に設置。住民は、室内用ロボットなどの新技術を検証するほか、センサーのデータを活用するAIにより、健康状態をチェックしたり、日々の暮らしに役立てたりするなど、生活の質を向上させることができる。「e-Palette」は人の輸送やモノの配達に加えて、移動用店舗としても使われる。まちの中心や各ブロックには、住民の集いの場となる公園・広場をつくり、コミュニティが形成されることもめざす。

 豊田章男・トヨタ社長は、同プロジェクト発表にあたり、「ゼロからまちをつくり上げることは将来技術の開発に向けて、非常にユニークな機会。バーチャルとリアルの世界の両方でAIなどの将来技術を実証することで、まちに住む人々、建物、車などモノとサービスが情報でつながることによるポテンシャルを最大化できる」と語っている。

 本紙はこのところ、「コンパクトシティ」や「ウォーカブル(シティ)」など、国土交通省が主導する新しいまちづくり構想を取り上げているが、こうしたまちづくりへの本紙の関心は“インフラとしての防災”であることは言うまでもない。『Woven City』ではどのように防災が“織り込まれる”か――ICT、AIを駆使した最先端の防災情報技術が導入されることは当然だろうが、立地となる裾野市の災害リスク、災害環境を踏まえたまちづくりや、住民の“自主防災組織”の先端的な手法にも注目したい。

 富士山噴火を想定した火山災害対策、デジタル都市の降灰対策は構想に織り込まれているだろうか。近未来都市の住民の生活・命を守ることを大前提として、噴火や南海トラフ巨大地震などの最悪想定を踏まえてこそ、事前防災でも最先端実証都市だと言える。

P5 3 未来実験都市、CITE(Pegasus Global Holdings資料より) - トヨタの「WovenCity」に 事前防災も織り込みたい
未来実験都市「CITE」(Pegasus Global Holdings資料より)

 ちなみに本紙は2015年10月17日付けで、米国での似たような先行事例「CITE」(the Center for Innovation, Testing and Evaluation)を紹介した。これは米国中西部ニューメキシコ州のラスクルーセス(Las Cruces)の近くの砂漠地帯に、人口3万5000人規模を想定した、先端技術を装備した小都市(面積は約40平方km=東京都江東区くらい)をつくろうというもの。ただし、“永住する住民”は想定しておらず、主に研究者・開発企業関係者が実験的に滞在するホテル都市のようなコンセプトだ。このプロジェクトは2015年5月から建設が本格化する計画だったが、4年を経たいまのところ、まだ具体的な進捗はないようだ。

>>防災情報新聞 2015年10月17日付け:米国で実験都市建設へ
>>トヨタ:「コネクティッド・シティ」プロジェクト

〈2020. 01. 18. by Bosai Plus

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