岩手日報2019年10月25日付け記事より

「台風19号」 早期避難を呼びかけた
岩手県支援チーム員からの訴え

齋藤徳美(さいとう とくみ)
 岩手県風水害対策支援チーム員 岩手大学名誉教授

岩手県、日中の早期避難を自治体に助言

 令和元年10月12日から13日にかけて、関東から東北地方沿岸を縦断した台風19号では、岩手県でも普代村で時間95mm、総雨量467mmなどと記録的な豪雨をもたらし、洪水・土砂災害など大きな爪痕を残した。
 災害時の避難の勧告・指示は、気象庁が発表する警報に基づいて首長が発令する。しかし、平成28年の台風10号に際して、自治体が適切な判断をできず、避難に十分な時間が取れないまま多くの犠牲を出した教訓を踏まえ、岩手県では、盛岡地方気象台・国土交通省岩手河川国道事務所・県河川課・県砂防課・岩手大学専門家からなり、市町村長に助言を行う「岩手県風水害対策支援チーム」を平成29年6月に立ち上げ、これまで4度、早期避難の助言を行ってきた。

 このたびの台風19号に際しても、県は接近2日前の10月11日14時にチームを招請し、15時30分過ぎには県内全市町村長に早期避難の必要性を助言した。さらに、12日11時には再度チームを招請、昼過ぎには盛岡地方気象台の予測に基づき、「台風10号時の岩泉の時間雨量70.5mm、総雨量248mmを凌ぐ場合も」という数値を示し、「日中に避難を完了するように」と、より具体的に踏み込んだ助言を行った。

避難者は危険な深夜に集中

 幸いにも、犠牲者は少数に留まり、日のあるうちの避難が功を奏したものと考えていた。しかし、県の災害情報システムによると、12日17時57分の県内の避難者総数は2,039名、同22時で6,686名、13日午前6時03分で9,930名と、避難者の多くは降雨の最も激しい12日夜から13日未明にかけて避難をしていたことになる。
 降雨が沿岸に集中し大きな河川の氾濫がなかったこともあり、避難途中での犠牲者が出なかったことは幸いと思うしかない。ほとんどの市町村はチームの助言に基づき、12日15時までに「避難準備・高齢者など避難開始」を勧告し、釜石市・岩泉町などは14時30分に「避難勧告」を発令している。しかし、「避難指示 (緊急)」は最も早い大槌町でも20時と夜になってからであり、13日未明になってようやく発令した自治体もある。
 避難勧告では住民の避難行動に結びつかず、盛岡地方気象台の大雨警報の発令に基づいた避難指示の発令が遅きに失したなど、多くの課題が浮かび上がる。

岩手日報2019年10月25日付け記事より(編集部責任で記事を複写掲載)

夜間の大雨警報、未明の特別警報は何に役立つか

 第一の問題点は、情報を発する時間帯である。盛岡地方気象台は12日13時35分に県内全域に暴風警報を発表しているが、沿岸地域への大雨警報は夜になった19時46分である。自治体がより緊急度の高い「避難指示・緊急」発令する上でのトリガーとなる大雨警報が、夜間に発表されて役立つのか。

 そもそも、警報は住民の安全確保が目的で発表されるものではないのか。さらに、最大級の警戒を求める「特別警報」の発表は13日の午前0時40分以降である。特別警報はすでに災害が発生している可能性もあり、むしろ「避難場所などへの避難行動をしてはならない」との情報である。何のために未明に記者会見をして特別警報を発表するのか意義が理解しがたい。
 住民の安全に役立たない情報は情報ではないに等しいことを改めて肝に銘ずるべきではないか。
 千葉県の自治体では、警報に基づく深夜の避難指示をあえて出さなかった町もあり、その決断の意義もかみしめるべきであろう。

豪雨で大破した車、釜石市両石町(釜石市提供)

多岐にわたりすぎる風水害情報

 第二に発表される情報が多すぎることである。気象庁の発表する「注意報、警報、特別警報、土砂災害危険情報(県と協議)、記録的短時間大雨情報(警報ではなく降ったという事後情報)」、首長から出される「避難準備・高齢者避難開始、避難勧告、避難指示(緊急)」など情報は多岐にわたる。
 さらに5月に気象庁が発表を始めた警戒レベルは、避難などへの指示が災害対策基本法上は首長の権限であり気象庁が避難を発しては違法となるが故に、「4」は「避難相当」などの注釈付きでかえってわかりにくいものにしている。これは、噴火警戒レベルに関して筆者が繰り返し指摘している事柄と同義の問題である。
 よって、何をトリガーとして避難行動に移るべきか、一般の住民には混乱を招いている。情報は出した、あとは住民の判断次第というのは役人の究極の責任転嫁である。住民に理解されない情報は情報ではなく、“シンプル・イズ・ベスト”であることを忘れてはならない。気象庁、河川管理者、自治体などが発する情報の種類についてもすり合わせ、再検討すべきである。

えぐられた大槌川堤防(大槌新聞社提供)

住民の理解を深めるための地道な取り組みを

 第三に、住民の自助努力を一方的に求めるばかりでなく、現状を正しく説明するとともに、災害への理解を深める地道な行動に取り組むことが重要という点である。多発が予想される風水害災害に関して、時間・区域を限定しての予測は困難で、気象庁のナウキャストでも確実性の高い予測は30分後までである。
 また、例えば、盛岡市域に避難指示が発令されたとして、30万人が避難する場所などないという現実も直視されねばならない。
 国は、垂直避難も避難のうちなどと弁明するが、避難は事前に安全な場所に移動するのが本来の姿であり、垂直避難も避難というのは詭弁である。2階で孤立したり家屋が流されたりする危険を考慮すれば、垂直避難は避難ができなくなった場合のやむをえない最終手段とされねばならないのである。

 風水害災害といっても、河川の氾濫、内水氾濫、土砂災害など異なった災害の危険性を一般の住民が理解し判断するのは容易ではないし、今のハザードマップも危険エリアを網羅できてはいない。住民が自ら住む地域の危険性を理解し適切に避難をすべしとの自己責任ばかりが強調されているが、どうすれば防災力を高められるか、机上の空論でない地道な対応こそが必要なのである。
 一町内(集落)に一防災士を育成し、自主防災組織などを主に日常から地域の特性を理解する活動を支援するなど、国や自治体はお題目をとなえるばかりでなく、息の長い具体的な取り組みに力を入れるべきである。
 今後豪雨災害が頻発することは確実な中で、国民の命を守るのが国の最大の責務であることを、改めて肝に銘ずるべきではないか。

〈2020. 01. 01. by Bosai Plus

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