「開発中のシステム画面イメージ」(関東地方整備局資料より)

「AI 避難指示」実証実験
より狭いエリアでのリスク評価と避難情報の発令。AIが市町村長の判断を支援します…

【 避難勧告・指示の発令判断を支援「市町村災害対応統合システム開発」 】

●避難情報を地区・校区等の小エリアで、かつ短時間で市町村へ提供する試み

 去る7月上旬、九州南部での大雨で鹿児島市などに「全域避難指示」が発令されたことで、本紙は(2019年)7月26日付け(下記にリンク)で、“市内全域避難”に疑問を呈した。また、マスメディア報道では避難場所への“避難率”の低さを取り上げ、住民の意識の低さと関連づける傾向があることにも異議を唱えた。

 国のガイドラインは、避難には指定緊急避難場所への避難のほか、近隣の安全な場所への避難(「水平避難」)、屋内の2階以上での安全確保(「垂直避難」)といった”避難法”を認めているからだ。

>>防災情報新聞 2019年7月26日付け:「全域避難?」どこへ逃げる?

 要は、国の「水害・土砂災害からの避難のあり方(報告)」(2018年12月26日)の提言にあるように、「住民が『自らの命は自らが守る』意識を持って自らの判断で避難行動をとり、行政はそれを全力で支援するという住民主体の取組み強化による防災意識の高い社会を構築する」との考え方を基本に置くべきとした。「行政は”全力で住民を支援”する」――その第一歩は、住民が避難行動を容易にとれるように、防災情報をわかりやすく提供することである。

 この“ホットな”話題が冷めやらない去る7月22日、国土交通省関東地方整備局が、AIを活用した災害時の避難勧告・指示等発令の市町村支援システム開発のための実証実験を、7月25日から茨城県常総市において開始するというニュースが入ってきた。これは国(内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能)の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第2期課 題『国家レジリエンス(防災・減災)の強化』におけるテーマVII「市町村災害対応統合システム開 発」(2018年度~22年度の5カ年)の実証実験で、災害時の市町村の適切な避難勧告・指示等 の発令判断や緊急活動を支援するためのシステム開発だ。

 研究開発グループは九州大学や河川情報センター、KDDI、応用地質で構成。当面の実証実験モデル自治体は常総市と福岡県朝倉郡東峰村の2自治体となっている。

P1 「市町村災害対応統合システム開発」の全体概要より(関東地方整備局) - 避難指示、出す・出さない?その判断、AIが支援します。
避難指示・勧告の判断は市町村長が責任を持たなければならないが、判断に必要な情報が膨大すぎて災害情報に埋没し、適切な避難・勧告の発令が困難。だからと言って「エイ、ヤッ、面倒だ! 全域避難だ!」では困る。そこで「市町村災害対応統合システム」におまかせを……自動的かつ迅速に判断に必要な情報を抽出し、市町村長による適切なタイミング・範囲での避難指示・勧告を支援、それがこれから始まる「AI防災」だ

 「市町村災害対応統合システム」では、最先端のAI・IoT技術と既存技術を融合し、避難勧告等の発令に必要な情報を地区・校区等の小エリアで、かつ短時間で市町村へ提供する技術開発を実現し、その後に全国1700自治体への社会実装を行うことで「犠牲者ゼロ」の社会づくりに貢献することをめざす。

 同システムは、次の3つのシステムで構成される――

①「避難判断・誘導支援システム」
 災害時に市町村長が住民に対して避難勧告・指示などを発令するための判断の際にビッグデータやAIを活用してタイムリーに発令エリアを設定できるよう支援

②「緊急活動支援システム」
 災害時における緊急活動を判断する情報。災害に即した必要な人や物資の情報

③「訓練用災害・被害シナリオ自動生成システム」
 リアリティのある多彩なシナリオを自動生成

P2 1 「開発中のシステム画面イメージ」(関東地方整備局資料より) - 避難指示、出す・出さない?その判断、AIが支援します。
「開発中のシステム画面イメージ」(関東地方整備局資料より)

 今後の予定としては、今回の実証実験で得られたデータやニーズを反映させてAI判定(定性判定)を含むプロトタイプを開発し、20年春にモデル市町村を追加して運用する。23年春には社会実装版を完成させ、運用を管理する体制を構築する。28年には全国約1700自治体への社会実装をめざすとしている。

>>関東地方整備局:AIを活用した災害時の避難勧告・指示等発令の市町村支援システム開発のため実証実験を開始

〈2019. 08. 11. by Bosai Plus

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