内閣府「警戒レベルに関する映像資料」より

「全域避難」=「全域アラート!」。
災害リスクの評価と行動がカギ

防災情報を避難行動に変換できる
地域防災リーダー(防災士など)の育成を急げ…

【 「避難場所」への避難率よりも、安全確保の”選択”行動が重要 】

●『全域に避難指示ってどこに行けばいいの? 市外に逃げるの?』

 去る7月上旬、九州南部では梅雨前線の影響で大雨となり、(7月)1日午前2時40分、鹿児島市が市民の7割を超える42万人余りを対象に、速やかな避難を呼びかける「避難勧告」を出した。翌2日午後2時、気象庁が会見を開き、「自らの命は自らが守らなければならない状況が迫ってきている」と危機感を訴えた。そして3日午前9時35分、鹿児島市は市の全域59万人余りに「避難指示」を出した。その直後に気象庁は再び会見を開き、4日朝にかけても猛烈な雨が続く恐れがあり、「場合によっては、大雨特別警報を発表する可能性がある」とさらなる警戒を呼びかけた。
 3日午後は所によって1時間に80mmを超える猛烈な雨が降り、鹿児島、宮崎両県で計約109万人に「避難指示」が発令された――

 ”災害報道のNHK”はこの状況を受け、3日午後のニュース番組のなかで、「鹿児島市や霧島市などでは全域に避難指示が出ました。住んでいる自治体の全域が避難の対象になった場合、どう行動すればいいのか……」をテーマに報道特集を組んだ。「ツイッターには住民とみられる人たちから、『全域に避難指示ってどこに行けばいいの? 市外に逃げるの?』、『全市民が避難する場所があるの?』といった、不安や戸惑いの声が相次いで上がっています」。
 そして一部地区を除いて避難指示が解除された4日夜10時の「クローズアップ現代」で「記録的大雨 ”全市避難”で何が起きたのか」と題して特集を組んだ。「命を守るためにと、早い段階で広範囲に出された避難指示が、かえって混乱を招いた」と――

>>NHK クロ現:記録的大雨 ”全市避難”で何が起きたのか

 データがやや古いが、内閣府資料によると、2004年~08年の5年間で、1年当たりの平均発令回数は避難指示が41回、避難勧告が258回だった(中央防災会議「災害時の避難に関する専門調査会」)。自治体の全域避難指示が出た例もこれまで何度かあった。
 本年5月末に運用が始まった気象庁「5段階警戒レベル」については本紙も最近号で取り上げたばかりだ。ひるがえって、避難指示・勧告で言う「避難」、そして「全域避難」をどう理解すればいいのか、今回の事例を機に、改めて基本に立ち返って取り上げたい。

警戒レベルに関するチラシ(内閣府資料より)
警戒レベルに関するチラシ(内閣府資料より)

●「避難率が低い=防災意識が低い」は間違い ”自宅待避”も避難

 「全域避難指示」とは、市の外へ避難せよということか、”避難場所”(緊急的に避難する場所は「避難所」ではなく「避難場所」となる。後述)は何十万人も受け入れられるだけのキャパシティはあるのか――現実的には、実際に「避難場所」へ避難する人は極めて少ないので、これまではそういった疑問の声が大きくあがるということはなかった。しかし今回、SNSというメディアを通じて、その疑問が波紋を呼び、NHKがそれを取り上げた。

 ちなみに一般市民は、避難勧告や指示が出て避難する場所は「避難所」だと思っているフシがあるが、国のガイドラインでは「避難場所」と「避難所」を明瞭に分けている。行政の防災情報がわかりにくいという批判の声は少なくないが、住民避難についての基本的な用語からしてまぎらわしいのである。

指定緊急避難場所:切迫した災害の危険から命を守るために避難する場所として、あらかじめ市町村が指定した施設・場所
指定避難所:災害により住宅を失った場合などにおいて、一定期間避難生活をする場所として、あらかじめ市町村が指定した施設

 したがって緊急的に避難する先を「避難所」だと思い込んでいると、そこは低地にあって浸水リスクが高かったり、がけ崩れのリスクのある場所だったりと、危険な場合もあり得るので注意が必要だ。ちなみに先述の「クローズアップ現代」では全体を”避難所”で通しているが、厳密には緊急的な避難先の意味では”避難場所”とするべきだろう。

 昨年の西日本豪雨災害では、被災地自治体から最大で約860万人に避難勧告等が発令されるなど避難行動を促す情報が出されたが、避難所(ここでは避難生活の意味合い)に避難していることが確認された人数は避難勧告等対象人数に対し、約0.5%(約4.2万人)だったという。マスコミ報道ではこの避難率の低さを取り上げ、住民の意識の低さと関連づける傾向があるが、実はその見方は”いまは違う”のだ。
 避難行動には、指定緊急避難場所への避難のほか、近隣の安全な場所への避難(「水平避難」)、屋内の2階以上での安全確保(「垂直避難」)といった”避難法”も国のガイドラインの認めるところだ。つまり、例えばマンションの3階以上の高さに住んでいる人や、近くに河川やがけがなく高台に住まいがある人などは避難の必要がなく、むしろ大雨のなかを避難のために移動することのほうにリスクがある。

 そうした人は、大雨警報などが出る段階ですでに、身の安全の確保法を判断(避難しないという選択)をしているとも言え、そういう判断を行った人を防災意識が低いとは言えない。したがって避難率を推計するのであれば、水平避難・垂直避難、そして”積極的・自宅待避”といった判断も含めたアンケートをもとに避難率の計算法を編み出すべきだろう。

内閣府「警戒レベルに関する映像資料」より
内閣府「警戒レベルに関する映像資料」より

●国の「避難対策への提言」 『自らの命は自らが守る』意識を持つべき

 「全域避難」を発令する自治体、それを市民に伝えるマスメディアの伝達法の問題が見えてきた。要は、「全域避難」は一種の”アラート(警鐘)”であり、水害が想定されるケースであれば、河川堤防の決壊を含めた低地浸水想定地域に具体的な避難行動(身の安全確保行動)を求め、高台に立地するマンション住民は外に出るな(リスクを避けて自宅待避)ということなのだ。自治体も市民すべての避難を呼びかけているのではなく、あえて言えば、災害発生の可能性への“警鐘を鳴らした”ということだろう。
 前述のNHK「クロ現」では「全域避難」への対応として専門家のアドバイスを紹介、「川べりやがけ下の住まいであればハザードマップを参考にして判断してほしい」としたが、それなら行政が「全域避難」を出す最初の段階でそう言うべきだろう。

 一網打尽に「全域」にしてしまうのは、逆に、一種の不作為(責任回避)と受け止められる。いっぽう、住民が自らがなかなかハザードマップを見ないのは、危ないところも安全なところも”いっしょくた”の「全域避難」という行政まかせの”共同幻想”のせいで、切迫感が薄められているのではないか。
 自治体は誤解を招く「全域避難」の用語は廃止し、代わりに例えば「全域アラート」としてはどうだろう。ついでに言えば「避難場所」は「逃げ場」に、「避難所」は「しばらく避難生活をする場」(わざと冗長な命名)に。

 国(内閣府)は昨年(2018年)12月26日、西日本豪雨災害の教訓を踏まえて「水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)」を公表、そのなかで「提言」を行った。「目指す社会」を、「これまでの行政主導の取組みを改善することにより防災対策を強化するという方向性を根本的に見直し、住民が『自らの命は自らが守る』意識を持って自らの判断で避難行動をとり、行政はそれを全力で支援するという住民主体の取組み強化による防災意識の高い社会を構築する必要がある」とした。

 そして、「行政が出す避難勧告等の情報は、一定のまとまりをもった範囲に対して出されるものであり、各個人の居住地の地形や住居構造、家族構成等には違いがあることから住民一人ひとりに即した情報を示すことは困難……(中略)……住民は、このような既存の防災施設、行政主導のソフト対策には限界があることをしっかりと認識すべきである。防災気象情報や河川の水位情報、土砂災害警戒情報をもとに避難勧告等が出たとしても、避難するかどうかの判断は個々の住民に依存している。自分の命や家族の命は住民一人ひとりが守らなくてはならない」とした。

 これだけ単刀直入な”住民の自己責任”の指摘は、2014年の「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」でもすでに強調されていた。行政は、住民の避難行動を助ける知識と情報の提供に努める責務はあるが、「住民の命を守る責務はない」と。この事実を私たちはしっかり認識しておくべきだろう。

 同提言は同時に、「住民は平時から災害リスクや避難行動について把握し、地域の防災リーダーのもと、避難計画の作成や避難訓練等を行い地域の防災力を高め、災害時には自らの判断で適切に避難行動をとる」ことを求めている。
 その防災リーダーとは、行政から出ている情報を避難するかしないかという行動に変換できる人で、地域ごとに育成すべきこと。また、自主防災組織には未だ意識に格差があり、全国で防災リーダーを育て、地域の防災体制を強化していくべきこと。地域の防災リーダーの育成・支援のため、水害・土砂災害・防災気象情報などに関する豊富な知見を有する専門家による支援体制を構築することなどがあげられている。
 いっぽう、行政は”全力で住民を支援”するとし、災害時には、住民が避難行動が容易にとれるよう、防災情報をわかりやすく提供する責務を負うとしている。

>>内閣府(防災担当):平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)

〈2019. 07. 25. by Bosai Plus

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