VR革新機構による防災と福祉の連携を推進するためVRフォトを活用した「バーチャル避難訓練」プレスリリースより

障がい者インクルーシブ防災 福祉プロが「個別支援計画」作成
“善意にだけ”頼れない。福祉プロ起用、
障がい者・地域住民と連携して、災害時も地域包括ケア

上写真:VR革新機構プレスリリース画像より。ストリートビューの技術を駆使した車椅子目線の「VR避難訓練」が登場した。一般社団法人VR革新機構が提供するサービスで、台風や大雨の水害を想定した避難準備・高齢者等避難開始を想定、避難行動要支援者とその援助者にパノラマビューを使いスマホやゴーグルで事前に避難経路の確認をするバーチャル避難訓練が行える。

【 「防災」と「福祉」の縦割りを超えて、連携のあり方にイノベーション! 】

●防災と福祉の連携の必要が提唱されて早15年、困難な課題にいま光が…

 復興庁の後継機関として防災庁の設置が議論されているという。災害対策は被災して初めて”足らざるを知る=想定外を知る”という側面があることは確かだが、災害の多いわが国でありながら、その災害対策は後追いの批判はかねてから根強くある。その遠因として縦割りの行政機構、あるいは前例踏襲の発想から抜けられないという陥穽もあるように思える。

 例えば、防災と福祉の連携は、いまから15年前の2004年、梅雨前線豪雨や一連の台風等での高齢者など要援護者の被災状況などを踏まえて、2006年3月に内閣府「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」報告『災害時要援護者の避難支援ガイドライン』が策定され、初めて本格的に唱えられたとされる。ガイドラインは、行政において防災関係部局と福祉関係部局の連携が不十分、要援護者や避難支援者への避難勧告等の伝達体制が十分に整備されていない、個人情報保護への意識の高まりに伴い要援護者情報の共有・活用が進んでおらず、発災時の活用が困難、要援護者の避難支援者が定められていないなど、避難支援計画・体制が具体化していないことが明確に指摘された。

 その課題への対応が講じられつつあるときに、東日本大震災が起こり、そこで犠牲者の過半数が高齢者で、障がい者の犠牲者数割合は地域によっては障害のない人の2倍程度(宮城県)にも膨らんだ。また、行政が保有する要援護者情報(障がい者手帳等)の外部提供を大半の自治体が拒否して安否確認が困難をきわめ、地域と要援護者の平時の接触が乏しかったこともあって避難説得にタイムロスが発生した。
 こうした課題を受けて、2013年、災害対策基本法改正があり、市町村長に避難行動要支援者名簿の作成の義務づけ、本人同意や条例に特別な定めがあれば名簿情報を平常時に避難支援等関係者に提供することが可能となり、災害時には本人同意に関係なく名簿情報の外部提供が可能とされた。

 いっぽう2016年熊本地震で、名簿情報の外部提供が進んでおらず地域の要援護者情報が不明確、名簿登載者が現状と乖離、避難のための個別支援計画の策定が地域まかせ、福祉避難所等における要援護者への理解・配慮がなく車中泊等に伴う震災関連死が直接死の約3倍となるなど、”災害現場”で機能しない実態も明らかになった。
 各種の調査によれば、2018年当初の時点で、実効性が期待できる要援護者個別支援計画の策定率は全国平均でおよそ1割程度にとどまるという。

兵庫県の「防災と福祉の連携促進モデル事業」

 そうしたなか去る2月21日、兵庫県が2019年度から、ケアマネジャー(介護支援)や相談支援専門員(障がい者支援)が災害時要援護者の個別避難支援計画を作成する「防災と福祉の連携促進モデル事業」を始めると発表した。福祉の現場のプロが地域住民(社協、自主防災組織など)と連携し、介護や障がいの支援サービスのなかで、避難支援などを要する人の特性に合わせた支援計画を作成しようというもので、都道府県では兵庫県が初となる。昨年6月現在で兵庫県内に要援護者は約43万人いるが、個別支援計画策定済みは約3万人分で策定率は約7%にとどまる。

 同事業で県は、全41市町で自主防災組織を1カ所ずつ選び、その地域を担当するケアマネジャーや相談支援専門員が、防災・災害対応に関する研修を受ける。研修は、兵庫県社会福祉士会、人と防災未来センターと連携しての防災力向上研修(基礎課程、応用課程)となる。さらに、住民らとの会議を経て、個別支援計画(災害時ケアプラン)を作り、防災訓練で検証する。地域住民とケアマネジャーなどの福祉専門職、医療関係者などが日常的な接点を持つことにより、平常時・災害時の支援を一体的にとらえた地域包括ケアシステムの構築につながることが期待されている。兵庫県は国にもこの取組みを促す方針だという。

 ちなみにケアマネジャーに支払う報酬は計画1件当たり7000円。県は2019年度当初予算案に報酬や研修のための1600万円の経費を盛り込んだ。
 なお、2018年度事業として県はすでに、播磨町(障害分野)と篠山市(介護分野)とモデル事業に取り組んでいて、立木茂雄・同志社大学社会学部教授(人と防災未来センター上級研究員)がこれに助言している。播磨町での事例は具体的で参考になるので、兵庫県HPからその概要を紹介したい。

兵庫県HPより、播磨町での調整会議(ケース会議)の模様

 まず、モデル事業で対象となった3人の障がい者と家族、各担当の相談支援専門員、自主防災組織、社会福祉協議会、行政機関等の関係者が集まり、調整会議(ケース会議)を開催。はじめに、国立障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発室が開発した「自分でつくる安心防災帳」(下記リンク参照)」を活用し、相談支援専門員がそれぞれの障がい者に対し、各自の当事者力(災害時に活用できる要援護者自身の防災力)をアセスメントした。

「自分でつくる安心防災帳」の4連ワークシート例
「自分でつくる安心防災帳」の4連ワークシート例

国立障害者リハビリテーションセンター研究所:「自分でつくる安心防災帳」

 その後、相談支援専門員が中心になり、障がい特性や避難時の留意点等を説明し、自主防災組織や家族からは避難支援のアイデア等を出してもらうという形で、エコマップ(要援護者や家族、社会資源等の関係性を図にしたもの)としてまとめていった。この作業により、要援護者にとっては自助としてあらかじめ備えておくべき項目を知るとともに、自主防災組織にとっては地域としてどのような支援が必要であるかを理解することができる。
 このエコマップの情報を兵庫県所定の様式に落とし込み、個別支援計画(災害時ケアプラン)が完成。避難訓練でこのプランの検証を行い、必要に応じて修正等を行う。
 作成した個別支援計画(災害時ケアプラン)は机上のものであり、実効性があるかどうかは防災訓練を通じて検証する必要がある。モデル事業で対象となった人も交じえた播磨町の障がい者防災訓練は本年1月6日に実施した。震度6強の南海トラフ巨大地震が発生し、110分後に津波が到達する可能性があるとの想定のもとで、モデル事業で対象となった3人の障がい者と家族、各担当の相談支援専門員、自主防災組織、地域住民、社会福祉協議会、行政機関等の関係者等約100名が参加した。

 個別支援計画(災害時ケアプラン)に沿い、各自宅から一時避難場所に集合した後、避難所の小学校に移動し、垂直避難で3階に移動。その後、訓練の振り返りを行い、成果と課題について議論を行った。訓練では地域住民から積極的な意見も出て、障がい者の家族からも「参加してよかった」という感想があった。どのような災害時要援護者(要配慮者)がいて、どのような支援が必要なのかを地域全体で把握することができ、普段からの声がけにもつながっていくのではないかとの手応えが得られた防災訓練だったという(兵庫県HPより)。

兵庫県:防災と福祉の連携促進モデル事業

「障がい者インクルーシブ防災の先駆者」 〜別杵速見

 都道府県では兵庫県が初めてという防災と福祉連携の画期的な事業だが、実は市町村レベルで先駆者がいる。大分県別府市の別杵速見(べっきはやみ)地区だ。
 別府市の障がい者、家族、福祉関係者などの呼びかけで2002年につくられた「福祉フォーラム in 別杵速見実行委員会」は、2007年の群発地震と火災事故をきっかけに防災の取組みを始めた。2015年3月の第3回国連防災会議(仙台市)で初めて「障がい者」の防災という視点が盛り込まれたことをきっかけに、「障がい者インクルーシブ防災」、「障がい者の災害への対応の当事者力を高める」のモットーのもとで、平常時から障がい者等要支援者のニーズを把握して個別避難計画を作成することになり、前出の立木茂雄・同志社大学社会学部教授は、もともとここでアドバイザーとして指導していた。

福祉フォーラム-in-別杵速見実行委員会「誰もが安心して安全に暮らせる災害時要援護者の仕組みづくり」の報告より

 立木氏は、個別計画づくりがこれまで進まなかった要因として――
①個別計画の策定が災害対策基本法上の義務ではない(国の指針で個別計画づくりの主体として想定されている自治会や町内会などの地域組織に人員や準備が整っていない)
②障がい当事者も、その半数以上はこのような取組みの存在さえ知らない
③より根本的な理由は、平時の在宅での生活を可能にする福祉の環境づくりと災害時の緊急対策が、それぞれ保健・福祉や防災・危機管理という異なった部局に分断され、構造や機能の連携がとれていない。要配慮者の対策が、平時の保健・福祉と災害時の防災・危機管理で分断されている
 ――としている(国民生活センター:立木茂雄「誰ひとり取り残されない防災をめざして」/文末にリンク)。15年前に指摘された縦割り行政は依然として改善されていなかった。

 立木氏は、次のように続けている。「根本的な解決策とは何でしょうか。答えは、高齢者や障がい者への配慮の提供を平時と災害時で継ぎ目なく連結させることにあります。災害が起きた場合、介助の必要な高齢者や障がい者を誰が支援するのでしょうか。いつもケアを提供しているヘルパーや介助者は駆けつけることができません。だから、専門家以外の人たち、つまりお隣近所の方々からの支援をいかにして確保するのかを考えておく必要があります。介護保険制度や障がい者総合支援法によるサービスを展開するうえで、地域の共助の力を高め、いざという時の近隣住民からの支援を組み込んだ個別支援計画を災害時のケアプランとしてあらかじめ作り、日常的に訓練を行うことが、福祉の側からも急務の課題」と。

 障がいを持つ当事者と、その支援ができる人を結びつける役割を担う人を「コミュニティ・ソーシャル・ワーカー」(CSW)という。「支援ができる」こと自体、言うは易くむずかしいことではある。しかし、その結びつけがシステム化・ネットワーク化できるのであれば、平時に試みておきたい。例えば防災士は、その志をもってネットワークの一員たり得るのだ。

福祉フォーラム in 別杵速見実行委員会「誰もが安心して安全に暮らせる災害時要援護者の仕組みづくり」の報告

立木茂雄:誰ひとり取り残されない防災をめざして

〈2019. 03. 03. by Bosai Plus

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