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文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 3000m級の山々・立山連峰と日本一深い谷・黒部峡谷を有し、特別天然記念物の雷鳥が日本で最も多く棲む富山県。保安林率は77.7%と全国1位、植生自然度も本州1位とダイナミックな自然に恵まれ、立山・剱岳にある万年雪は2012年に日本初の「氷河」と認定されました(富山県ホームページ、以下HP 変化に富んだ自然と豊かな水他参照)。また雪深き里として知られる藁葺き屋根の五箇山合掌造り集落(南砺市)は世界文化遺産に登録され、世界中から観光客が訪れる人気の観光地となっています。豪雪地帯である富山県は昔から雪と共に生き、しばしば雪害に悩まされてきた地域なのです。

 まず、富山県(北陸地方)の豪雪災害で挙げられるのが「昭和38年豪雪」です(気象庁HP 昭和38年1月豪雪参照)。1962年(昭和37年)12月末~1963年(昭和38年)2月初めにかけて、北陸地方を中心に全国的な大雪となり、伏木(現富山県高岡市)225cm、富山250cm、氷見355 cm、砺波320cmの最深積雪を記録しました(富山県県民生活課HP「とやま雪の文化~次世代につたえよう~」関連情報 資料集「豪雪」参照)。雪の重みで家が倒壊し、除雪も困難となって孤立集落が続出、富山県県民生活課HPによれば同県の犠牲者は15名、行方不明1名、負傷39名、民家全壊52棟、半壊135棟となっています。富山市の総曲輪(そうがわ)商店街アーケードは約50mにわたって落下、一方、高岡市ではアーケードや公会堂が倒壊したとのことです(全国では死者228名、行方不明者3名、負傷者356名、住家全壊753棟、半壊982棟、床上浸水640棟、床下浸水6,338棟の被害。消防白書より)。

 また「昭和56年豪雪」では、1980年(昭和55年)12月~1981年(昭和56年)3月にかけて全国的に低温となって日本海側は大雪となり、強風や雪のための送電線が切断されたり鉄塔が倒壊したりする事故が発生しました(気象庁HP 昭和56年豪雪参照)。富山県の最深積雪は伏木148cm、富山160cm、氷見145cm、砺波181cm、上市262cmで、同県の被害は死者22名、負傷者1167名、民家の全壊15棟、半壊・部分壊1196棟でした。降雪第一波の12月27日には、富山県が38年豪雪の教訓を活かし「55 年道路交通除雪計画」に基づき除雪体制とっていたさなかであり、さらに第2波(1月2日~8日)、第3波(1月10日~17日)の時には国と協議して除雪体制を強化し、道路状況改善に努めました。

●料理名:ぶり大根(富山県)

 富山県の冬のグルメで真っ先に名前が上がるのは魚のぶり(鰤)です。富山湾で獲れるぶり、特に「氷見の寒ぶり」は最高級ブランドとして名をはせています。「VISIT富山県」HP(事業協同実施:富山県 観光・交通・地域振興局 観光振興室 他)によると、氷見の寒ぶりとは「判定委員会が決定した期間に富山湾の定置網で漁獲され、氷見魚市場で競られたぶりのこと」です。11月~1月までの産卵前に漁獲されるため、非常に脂がのっています。ぶり以外にも魚が大変美味しいと言われる富山県ですが、その理由の一つは漁場から港までが近い「天然のいけす」と呼ばれる富山湾にあり、活きが良いまま港に運ぶことができます。さらに大陸棚がほとんどなく海底が急に落ち込み1000mを超える深い谷があり、海水は大きく3層に分かれています。深層の300m以下は冷たい日本海固有水、その上は対馬暖流、一番上は河川水が覆っているために様々な魚が棲みついています。また山々から酸素や養分を含む雪解け水が海へと流れ込み、美味しい魚を育むのです。

ぶり大根①1783 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉 <br>【第35回】 富山県「ぶり大根」

 漁法にもこだわりがあります。氷見は定置網漁発祥の地として約400年もの間、技術を受け継ぎ伝統を守って漁を行ってきました。定置網漁の一番の利点は魚にストレスがかからず味が落ちないことです。さらに獲れたぶりは船の上で氷を使って「沖じめ」にし、鮮度を保ちます。今回の郷土料理は氷見の寒ぶりを使った「ぶり大根」にしました。切り身でも高い氷見の寒ぶり(デパートの地下ですと、3切れ2000円!)ですが、ちょうど、お店が閉まるころに駆けつけたのでちょっとお安く入手できました。レシピはレタスクラブニュースHP「ぶり大根」(レシピ作成・調理:土井善晴)を参考にしました。

★翌日はもっと美味しい飴色のぶり大根

 大根をコトコトと煮込むのは冬の醍醐味です。醤油のいい香りが立ち上り、その香りだけでご飯が食べられる気分です。ぶり大根の素晴らしいところは、翌日は味が染みてもっと美味しくなるところですよね。今回は氷見の寒ぶり切り身を使用したのですが、ぶりのアラを使うのもオススメです。アラを使う時はあらかじめザルにアラを入れて熱湯を回し掛けするなど臭みをとる方法があります。今回のレシピは切り身でしたので熱湯を回し掛けるかわりに、ひたすら丁寧にアクを取りながら煮ました。結構たくさんのアクが出ますので、鍋のそばに立ち、アク取りに励みました。

 さて、ぶりは成長にともない、呼び名が変わる出世魚です。ニッスイ(日本水産株式会社)のHP「おさかなと私たち ぶり【鰤】」には、地方によって呼び名が変わることが書かれていました。

 関東では わかし→いなだ→わらさ→ぶり

 関西では つばす→はまち→めじろ→ぶり

 富山県では つばいそ、こずくら、ふくらぎ→がんと(はまち)→にまいずる→ぶり(こぶり)→さんかぶり→おおぶり

 「いなだ」や「わらさ」、「はまち」などは東京のお寿司屋さんでもしばしば聞く名前ですが、富山県での呼び方は全く知りませんでした。ぶりはビタミンEを多く含む魚で抗酸化作用が期待できます。アラを使えばコラーゲンもとれて女性には嬉しい美容効果もあります。肝臓に良いタウリンや鉄分、疲労回復に効果的なビタミンBを含むぶりと、消化に良い大根の組合せは黄金コンビ。鍋にたくさん作って、翌日も家族みんなで飴色に煮あがったぶり大根をいただきましょう!

〈2019. 02. 07.〉

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