ジェンダーを超えて 学びとしての「災害女性学」
その“土台”は人びとの尊厳を守り、多様性に配慮すること
 助かる命を増やす“学び”
●「 災害女性学」とは 意思決定の場でジェンダー平等の実現をめざす

「災害とは一般に、地震や津波といった自然現象や人為的原因により引き起こされた人間の生命、生活、尊厳に著しい影響を及ぼす被害を意味する。ただし、自然災害であっても、災害は人びとに等しく影響を与えない。そこには程度の差はあれ、社会的脆弱性と、構造的不均衡を背景に、より弱い立場の人々が被る人為的被害がかかわっている……
本書は、宮城で、また日本各地でこの10年に女性主体で活動してきた市民団体の実践、災害研究を丁寧に辿り、『災害女性学』というあらたな学問分野を切り拓いた一冊」――これは天童睦子・宮城学院女子大学教授と浅野富美枝・宮城学院女子大学元教授の編著による「災害女性学をつくる」(生活思想社刊、2021年1月)の刊行趣旨となっている。
東日本大震災の直後に宮城県が設置した災害対策本部等の委員の約95%は男性で、女性は1割にも満たなかった。こうした割合では欠落する視点がどうしても出てくる。女性目線で避難生活での生理用ナプキンや洗濯物の干す場所の確保のような個別課題はもとより、意思決定の場でジェンダー平等が実現していないことが、そもそもの問題なのだ。
 「災害女性学」とはなにか、なぜ「災害女性学」が必要か――天童睦子・宮城学院女子大学教授があるメディアからの取材に次のように答えている。
 「東日本大震災の後、女性学や家族社会学に詳しい宮城学院女子大学の浅野富美枝さんと出会いました。その後、2016年に熊本地震があり、浅野さんが2011年に東日本大震災の被災地で経験したことも踏まえ、災害で女性が苦しむ背景や要因について学術的に分析する必要性を痛感、2021年に『災害女性学をつくる』という本をまとめました」


「阪神・淡路大震災では、男性よりも女性が約1000人多く犠牲になりました。経済的に豊かではない高齢女性が、耐震性の不十分な住宅に住んでいたことが背景にあります。社会的・経済的な地位が、災害時の命を左右することを物語っています。また、東日本大震災で仕事を失った女性がなかなか復帰できなかった。震災後に被災地で増えた仕事は建設関係の仕事でしたが、特に沿岸部で女性が多く働いていた水産加工の仕事はなかなか元に戻りませんでした。女性が子どもの世話や介護をはじめとした家庭責任、ケア責任の偏在が、震災後の男女の雇用・働き方の違いにも影響していたのです」
「災害女性学」の土台にあるのは、ジェンダー平等や多様性への配慮であり、人びとの尊厳を守る人権アプローチの視点もある。それは女性だけではなく、子どもや高齢者、障害者、外国人などでも同じで、多様性に配慮することで助かる命が増えると言えるのだ。
浅野富美枝・天童睦子 編著:『災害女性学をつくる』(生活思想社)
〈2025. 09. 20. by Bosai Plus〉
