この猛暑や豪雨は 温暖化の影響か WACに聞こう!
「極端気象アトリビューションセンター(WAC)」とは――
極端気象に対する気候変動の影響を「見える化」
科学的手法「イベント・アトリビューション(EA)」で分析・発信
●記録的高温 「地球温暖化の影響がなければ発生しなかったレベル」
この夏、「熱中症警戒」の話題が全国を席巻した。だれしも、これは地球温暖化の影響で、もはや“災害級”ではないのか、と。ロシア極東カムチャツカ半島沖で7月30日に発生した巨大地震で津波警報が発表された際の避難行動に関しても、避難所の熱中症対策が大きな課題となった。
それを裏づけるように、東京大学と京都大学の研究者らが立ち上げた「極端気象アトリビューションセンター(WAC)」(WAC: Weather Attribution Center、以下「WAC」)が去る8月8日、「2025年7月下旬の記録的高温は『 地球温暖化の影響がなければ発生しなかったレベル』」だったとした。
WAC:2025年7月下旬の記録的高温 「地球温暖化の影響がなければ発生しなかったレベル」

WACが、2025年7月下旬の記録的高温イベントをWAC手法により分析したところ、人間活動による地球温暖化の影響が確認されたという――

○7月22日〜30日の日本全域および、北海道などで顕著な高温となった7月18日〜26日の北日本の1500m平均気温は、7月の同時期としては1950年以降で観測された第1位の高温であった。
この要因として、ヨーロッパ方面から日本付近へかけて亜熱帯ジェット気流に沿った波の伝播と、北西太平洋域(フィリピン東海上)の熱帯低気圧を含む活発な対流活動により、日本付近で背の高い太平洋高気圧が強まったこと、とくに北日本ではこれらの状況が顕著となったことが考えられる。
○日本全域の高温イベントは、2025年の気候条件下では、約31年に1度の割合で発生し得る(約3.2%の発生確率)が、人間活動による地球温暖化の影響がなければ発生し得ないレベルだった。
WAC手法を2025年7月22〜30日の日本域高温イベントに適用した結果、この時期の1500m気温が実況の気温(19.4℃)を上回る確率は、2025年の現実的な気候条件では約3.2%であり、これは約31年に1度の頻度で発生することを意味する。
○7月18日〜26日の北日本の高温イベントは、地球温暖化の影響によって発生リスクが約34倍に高まった。
北日本の高温イベント(実況の気温は19.2℃)について同様の分析を行なった場合、平年を基準とした場合は約0.75%(およそ133年に1度)、2025年の現実的な気候条件では約3.6%(およそ28年に1度)、非温暖化気候条件では約0.10%(およそ955年に1度)となり、地球温暖化の影響によって、高温の発生リスクが約34倍と推定。
○2025年の海面水温などの自然変動も高温イベントの発生リスクを高め、とくに北日本ではその影響がより大きい傾向に。
2025年の海面水温などの自然変動も、日本の高温イベント発生リスクを高めた。とくに北日本では、この影響がより大きい傾向が見られた。
●イベント・アトリビューション――「温暖化した地球」と「温暖化がない地球」を再現

WACは、日本各地で発生した極端気象について、人間活動による地球温暖化やその他の気候変動がどの程度影響しているかを「イベント・アトリビューション(EA)」(EA:Event Attribution)という科学的手法で分析し、その結果を公表する。
イベント・アトリビューションでは、気候モデルを用いて「温暖化した地球」と「温暖化がなかったと仮定した仮想的な地球」を再現し、スーパーコンピュータを活用してそれぞれ多数(例えば100通り)のシミュレーションを実施。両者を比較することで、出現頻度が低いために観測データからだけでは評価が困難だった極端気象についても、温暖化が極端気象に与えた影響を確率的(発生頻度)または量的(強度)に評価できる。
WACは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にならい、政策や意思決定に資する知見の提供、および極端気象の様相と背景にある地球温暖化や自然の気候変動との関係を広く市民に啓発することが目的。
WAC自身は特定の政策や意思決定の示唆はせず、極端気象に対する気候変動の影響を「見える化」し、気象予報士やリスクコミュニケーションの専門家とも協働して、科学的な分析情報を迅速に発信するとしている。

極端気象アトリビューションセンター(WAC: Weather Attribution Center)
〈2025. 09. 16. by Bosai Plus〉