鳥取県智頭町「疎開保険」の狙い―
「関係人口」を増やせ!
「みどりの風が吹く疎開のまち」の“生存戦略”としての疎開保険加入募集
鳥取県智頭町(ちづちょう)は人口約6100人・高齢化率45.56%(2025年2月1日現在)。鳥取県の東南に位置し、南と東は岡山県に接する。
周囲は中国山脈の山々が連なり、その山峡を縫うように千代川が流れ、鳥取砂丘の砂を育んだ源流のまちでもある。まちの総面積の9割以上が山林で緑が一面に広がり1年を通してまちを彩る植物や美しい自然にあふれ――まちのキャッチフレーズは「みどりの風が吹く疎開のまち」だ(同HPより)。

そう、智頭町は、「疎開のまち」と自らうたうように、東日本大震災が起こった2011年3月の翌月・4月から、全国初の試みとして「智頭町疎開保険」制度を導入している。これは、自然災害が起きた際に智頭町が疎開保険加入者に「7日分の食事」と「快適な避難場所」を提供するものだ。
疎開保険加入料は年間1万円(1人)から2万円(家族3〜4人)で、疎開の受入れ条件は「災害救助法が適用された地域の加入者」。疎開補助の内容は「町内および近隣町村提携施設の宿泊場所・食事の確保・提供」(1日3食・7日分)となっている。
幸い災害に遭わなかった加入者には毎年秋に智頭町特産の米・野菜、加工品など特産品が届けられるほか、「森林セラピー」など智頭町での体験メニュー参加費用が半額になるなどの特典がある。


疎開保険導入から14年間、智頭町は保険加入募集を続けていて、加入者は延べ2600人にのぼるというが、これまで同保険での被災条件の適用を受けて疎開した人はゼロ。しかし、加入者は、保険の特典の利用で満足しているという。
然り、智頭町は、この保険は「災害を切り口にした地域間交流」を目的とした独自の取組みであり、いまで言う人口減少・少子高齢化の打開策である「関係人口・増」を図る試みだとして、保険加入者の疎開実績ゼロは意に介さない。疎開保険は一種のふるさと納税のようなもので、この小さな自治体のファン=関係人口を増やすことに一役買っているというわけだ。
智頭町が疎開保険を初めて導入したあと、南海トラフ巨大地震での最悪被害想定などが公表され、対策強化地域周辺での疎開保険導入が検討され、本紙もその時期に関連情報を収集したが、普及するまでに至っていない。直近の南海トラフ巨大地震・被害想定の更新で、再検討するところも出てくるのではないだろうか。
〈2025. 05. 13. by Bosai Plus〉