image 降灰シミュレーション計算結果(ワーキンググループ報告書より) - 新たな「火山灰予測情報」導入へ 気象庁

火山灰は、灰の深さが0.1ミリの「注意報」でも
鉄道が止まる恐れ

降灰0.1mm未満なら通常生活継続。
ただし、​航空機運航停止や目の痛みなどの影響も

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「広域大規模停電」以上に社会的影響が大きい「火山灰の広域降灰」
気象庁が新たに「火山灰予測情報」を検討―数年後の運用をめざす
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 たまたま、スペインとポルトガルで4月28日に大規模な停電が発生し、各地で交通機関が麻痺するなど大きな影響が出ているという(本項執筆時点)。停電はフランスの一部でも発生したようだが、この時点で原因は特定できていない。ひるがえって、広域大規模停電は、火山噴火による降灰でも起き得ることから、その連想から、本項導入部で大規模停電を取り上げた。というのも、気象庁が4月25日、「広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(報告書)」を公表したからだ。

P1 広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報発表のイメージ(気象庁資料より) - 新たな「火山灰予測情報」導入へ 気象庁
大規模噴火時に広域に降り積もる火山灰への対策を迅速に行うため、内閣府の「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」に基づき、火山灰量に応じた防災対応や情報提供の必要性が示されている。​これを受けて、気象庁は「広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(報告書)」をとりまとめた。ちなみに、宝永噴火以降、富士山では約300年噴火が発生していない。これほど長期の静穏状況は“異常”とする専門家は多いのだ

 例えば富士山の噴火で大量の火山灰が降ると、とくに首都圏や都市部では、交通網が麻痺し、電気や水道など命に関わるインフラが機能を失うおそれがある。
 このたびの「火山灰予測情報」のあり方・報告書は、内閣府の「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」に基づいて火山灰量に応じた防災対応や情報提供の必要性が示されていることから、気象庁において大規模噴火時の新たな火山灰予測情報の具体的な内容についての検討を行うため、本年1月から「広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会」(座長:藤井敏嗣・東京大学名誉教授)を開催、火山灰予測情報の改善案を取りまとめたもの。

P2 1 広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(概要より)(気象庁資料) - 新たな「火山灰予測情報」導入へ 気象庁
広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(概要より)(気象庁資料)

気象庁:「広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(報告書)」公表

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火山灰量に応じた対応ステージの設定
火山灰警報や注意報を新たに導入、住民や自治体に備えを促す
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 火山の噴火に関して気象庁は「噴火速報」や「噴火警戒レベル」を運用しているが、その対象は火口周辺の住民や登山者だ。いっぽう、火山灰は噴出量や風向きなどによっては離れた地域でも鉄道など公共交通の運休や停電、水道の水質悪化などの影響が想定されるところから、情報提供により自治体や市民に備えを促すことにつながる。

 中央防災会議・防災対策実行会議「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ(WG)」は2020年4月に、富士山をモデルケースとした噴火時の首都圏を含む広域な地域における降灰による被害想定、シミュレーションをもとにした応急対策を検討、報告をまとめている。

P2 2 降灰シミュレーション計算結果(ワーキンググループ報告書より) - 新たな「火山灰予測情報」導入へ 気象庁
降灰シミュレーション計算結果(ワーキンググループ報告書より)

 その報告の降灰による主な影響をみると、噴火が約2週間続き、東京都心方向に風が吹くケースでは、15日目の累積降灰量は、東京都新宿区10cm程度、千葉県成田市3cm程度、横浜市2cm程度、神奈川県相模原市30cm程度(ただし、天候や風向、風速により、各地で積もる量は大きく変わる)。
 都心方向に風が吹くと、噴火から3時間で首都圏に灰が到達。鉄道は微量でも運行できなくなり、雨が降れば電気設備に付着して停電が起きる。灰の量は、東日本大震災で出た災害廃棄物の10倍近い4.9億立方mに達するという。

 広域に火山灰が降り積もった大規模噴火の事例の1つとして、気象庁は、宝永4年(1707年)の富士山の噴火(宝永噴火)をあげている。当時の史料によると宝永噴火は、1707年12月16日(旧暦:宝永4年11月23日)の午前10時頃に発生、1708年1月1日未明の噴火停止まで16日間に及んだ。

 宝永噴火は富士山の南東斜面で発生し、その噴煙高度は10数km上空まで到達。噴煙は火山活動の状況によって時間経過とともに高度が上下したが、火口から10km 離れた静岡県駿東郡小山町で300cm、50km離れた神奈川県伊勢原市で30cm、120km離れた千葉県市原市で8cmと、関東広域で火山灰が降り積もった。
 宝永噴火によって、江戸が暗闇に包まれたことや火山灰が降ったという文献が残っており、気象庁検討会においても有識者から、同様の噴火が発生した場合には東京が数時間で暗闇に包まれる可能性があることが指摘された。

 当時の噴煙の状況と、同季節の気象状況を用いて、噴火終了時の火山灰の堆積状況をシミュレーションした結果がワーキンググループ報告書に示されており(左図:上から2番目)、実際の堆積状況と一致している。
 なお、宝永噴火では噴火前に前兆現象とみられる鳴動や地震が発生。噴火時には、風に流された噴煙から降下した火山灰以外にも弾道を描いて飛来する噴石や火山弾の飛散、火柱・空振・火山雷などの火山現象が発生した。 ちなみに、宝永噴火以降、富士山では約300年噴火が発生していない。これほど長期の静穏状況は“異常”とする専門家は多い。

 気象庁「火山灰予測情報のあり方」報告書は、「火山灰警報(仮称)」の導入で​、火山灰量と防災対応を紐づけた階級表の改善、噴火の推移に応じた火山灰量の見通し情報の提供(1mm以上の火山灰量も分かるよう改善)​、噴火前の防災準備情報の強化(噴火警報や記者会見での警戒呼びかけ)を図る。
 また、「火山灰量に応じた防災対応の区分」では、30cm以上で原則避難(​木造家屋倒壊や土石流の発生が懸念される)。​3cm以上〜30cm未満で自宅で生活継続(状況に応じ移動/交通障害やライフラインへの影響を予想)。0.1mm以上〜3cm未満で自宅で生活継続(​健康被害やライフライン障害に注意)。0.1mm未満で通常生活を継続(​航空機運航停止や目の痛みなど軽微な影響)などの具体例をあげている。

P2 3 首都圏における広域降灰対策ガイドライン(2025年3月) - 新たな「火山灰予測情報」導入へ 気象庁
首都圏における広域降灰対策ガイドライン

​ 防災対応としては、住民の行動については「火山灰量に応じて避難や生活継続を選択。 ​医療や介護が必要な人は適切な地域へ移動」。​ライフライン復旧は、影響の大きさに応じて復旧を優先。​「火山灰予測情報の改善」については、​現状では1mm以上の火山灰量が同一カテゴリーで扱われているが、改善後は1mm以上の火山灰量の詳細も示す。
 「火山灰予測情報」の運用は数年後となる見通しだ。

P2 4 実際の事例(単発噴火/2016年10月8日阿蘇山噴火の事例)における降灰予報と観測の誤差 - 新たな「火山灰予測情報」導入へ 気象庁
実際の事例(単発噴火/2016年10月8日阿蘇山噴火の事例)における降灰予報と観測の誤差
P2 5 降灰予報で使用している降灰量階級表 - 新たな「火山灰予測情報」導入へ 気象庁
降灰予報で使用している降灰量階級表

〈2025. 05. 01. by Bosai Plus

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