地域防災の“死角”「酒場・居酒屋の防災」
防災マニュアル 飲食店「72.5%が用意していない」
●ヤッホーブルーイングの「お酒好きのための防災プロジェクト」 始動 !

「よなよなエール」などのクラフトビールを製造・販売する株式会社ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が、“飲酒しているときの防災”に焦点を当てた飲酒者向け防災啓発プロジェクト「お酒好きのための防災プロジェクト」を始動した。
第一弾では、居酒屋やバーなどのお酒を提供する飲食店(以下、酒場)における安全確保の声かけ(身を守る行動の呼びかけ・避難誘導、指示など)をテーマに取り組む。「酒場における適切な安全確保の声かけの方法がわからない」という課題に対して、酒場における適切な安全確保の声かけをまとめた「酒場のための地震防災ガイドライン」を、備え・防災アドバイザー・BCP策定アドバイザーの高荷智也氏監修のもと策定。従事する酒場の情報をWEB上で選択することでオリジナルのガイドラインを作成できるというもの。


ヤッホーブルーイングでは事前にインターネット調査を実施、日常的に酒場・飲食店(居酒屋など)でお酒を飲む全国の20代〜60代男女300名に、店でお酒を飲んでいる最中に災害が起こることを想像したことがあるか聞いたところ、65.3%の人がない(ない・あまりない)と回答。また、飲食店で酔っている状態の時に災害が起きたとして、安全を確保する行動や必要に応じて避難する行動をできるか聞いたところ、約半数の人が対応できない(全くできない・あまりできない)と回答。不慣れな場所、混雑した状況の飲食店で、利用客の半数が適切な防災行動ができない可能性が高いことが示唆されたという。
さらに気になるデータとして、飲食店のオーナーまたは店長200名に、防災マニュアルを用意しているか聞いたところ、「72.5%が用意していない」と回答。多くの飲食店において災害発生時の対応方法のマニュアル化が進んでいないことは深刻な課題だ。
●宮城県石巻市の飲食店団体「石巻芽生会」が 2014年に「料理店の防災」に取り組む

宮城県石巻市の飲食店団体「石巻芽生会」が、飲食店の営業時間中に地震が発生した想定での「夜の避難訓練」を初めて実施したのは、東日本大震災から3年を経た2014年2月のこと。
実際にビールを飲んだ客役の誘導を通じ、非常灯を頼りに階段を下りたり、靴を履いたりすることの難しさを体験。その訓練時の実感とともに、階段に蓄光テープを貼るなどの改善策を提案した冊子「料理店の震災談義」を同年10月に発行、同業の飲食店が備えるべき“心得”の普及を図っている(文末にリンク)。
冊子は、「大津波警報・津波警報、避難指示が出された時は、安全確保のため閉店します」などと店側の基本行動を示し、客に対しても自らの判断で身を守るよう呼びかけている。
石巻芽生会の2度目の訓練は2018年9月に、東北のブロック紙・河北新報社(仙台市)の防災企画「むすび塾」で実施した。その視察に出向いたのが、同じ問題意識を持った神奈川県横浜市中区・馬車道地区の「よりみち酒場」。
この一帯は最大級の津波で1〜2m浸水する恐れがあるが、「津波の備えには取り組んでこなかった」ことから、視察後の同年11月12日夜、早速、居酒屋からの津波避難を検証する訓練を、横浜市中区で初めて行った。
停電を想定して真っ暗にした店舗2階からの避難訓練で、宴会中の客役ら約80人は懐中電灯などを頼りに階段を下り、避難先の市役所へ。移動の難しい車いす利用者の避難は客にも手助けを求め、非常階段から3階に上がった。参加者からは「落ち着いて行動するのは難しい」といった声が漏れたという。
石巻芽生会では、「こうした訓練を積み重ねれば、救える命が増える」と訓練の広がりに期待している。
まさに、地域防災の日常活動として“死角”とも言える「酒場・居酒屋の防災」ではないか。

〈2025. 12. 23. by Bosai Plus〉

