竹製足場の脆弱性を反映した
香港高層住宅群の炎上リスク
高層住宅群大規模火災の惨事
―わが国で同様のリスクは考えにくいが、想定外への嗅覚を磨け
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「垂直都市」の高層住宅団地は“脆弱な足場”で支えられていた
高層ゆえの“煙突効果”で炎上が加速、高齢者が逃げ遅れ…
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
香港北部、大埔(Tai Po)区にある約2000戸、4800人の住民を抱える高層住宅団地の宏福苑(Wang Fuk Court)で11月26日午後2時50分ごろに出火、8棟の31階建て住宅のうち7棟に延焼し、少なくとも146人が死亡、負傷者は79人・うち15人が重傷、なお150人が行方不明(香港警察当局、11月30日現在)となる大規模火災が発生した。


宏福苑(Wikipediaより)
この火災は、修繕工事中に設置されていた竹製の足場と保護ネットに引火し、周辺の建物に延焼したと見られている(出火元は低層階に設置されていた工事用保護ネットとみられ、出火が昼過ぎであることから人の目も多く、炎が立ち上がり延焼する模様が動画で撮影されている)。
火災は、強風にあおられた竹製の足場が激しく燃え上がり、その残骸が飛散して他の建物に延焼したとみられる。この高層住宅群は築40年以上で、住民の多くは高齢者だと報じられている。また、修繕工事で窓が閉め切られていたため、火事に気づかなかった住民もいたようで、火災発生時には多くの住民が建物内に閉じ込められ、救助を求める状況だった。
ベランダはなく、低層階の住民が窓から避難しようにも、外壁を覆う竹製足場の炎上で阻まれたようだ。各戸の窓などに貼られていた発泡スチロール(発泡ボード)も極めて可燃性が高く、火の急速な拡大につながった可能性も指摘されている。さらに、火災報知器が作動せず、スプリンクラー設備もなかったと報じられている。
香港消防当局によると、数百人の消防士が消火活動にあたり、多数の消防車と救急車が現場に派遣された。警察当局は火災原因の調査を開始しており、防火基準を満たしていない建築資材が使われていた可能性や、火の広がりを早めた可能性のある外壁素材についても調査を進めている。火災に関連して、警察当局は過失致死の疑いで建設会社の取締役とコンサルタントを含む3人の男を逮捕したという。
炎から逃れた被災者900人以上が一時的な避難所に身を寄せている。中国の習近平国家主席は犠牲者に哀悼の意を表した。
英語版 Wikipedia:Wang Fuk Court Fire 20251127
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
“百万ドルの夜景”と「垂直都市」の脆弱性と
地震国・日本は、高層建物にも厳しい防火基準 “想定外”へ嗅覚を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
香港は、土地不足から商業ビルや住宅の高層化が進み、その都市構造は永年“百万ドルの夜景”で世界的に知られる。しかしいっぽう、「垂直都市」の脆弱性として、高層ビルの建築・修繕工事にあたっては伝統的な竹製の足場(安価で加工しやすい)などの使用などにより過去にはいくつかの高層住宅火災が発生した。
特に1980年代以降に建設された高層住宅団地は密集して建てられ、その修繕工事で使われる竹製の足場は乾燥すると非常に燃えやすく、強風にあおられると炎が一気に広がる要因になる。また、高層化が進んだ香港の都市モデルでは、垂直方向への煙や炎の加速、風の影響を受けやすく、専門家は、火災発生時に被害が拡大しやすい構造上の脆弱性を指摘、行政においても近年は竹製の足場の使用を抑制する方向性にあった。

香港消防処の報告によると、特に竹製の足場が関わる火災は複数報告されている。2025年4月・5月・10月に足場火災発生、2024年の九龍火災はタバコの火の不始末が原因で発生。23年に九龍地区での竹製足場が燃えた火災でも鎮火に長時間を要した。
ちなみに今回の香港の高層住宅ビル火災は、高層ビル火災の代表例として知られる英国の「グレンフェルタワー火災」と共通点があるようだ。両者ともに建物の外壁周りの可燃要素が連鎖して炎上、炎と煙が“煙突状態”となって上方向へ急速に展開したという点だ。
わが国での火災安全研究の第一人者、関澤 愛・東京理科大学教授は2019年の小論で「最近の高層ビル火災の主な原因は外壁を介した上階延焼」だとし、「特にアジアや中東では外壁の可燃性材料が原因で急激な上階延焼が発生している」とした(下記リンク参照)。

そして、「2017年のロンドンのグレンフェルタワー火災は、外壁の炎上による上階延焼の問題を広く認識させた。この火災では、外壁に使用された断熱材とサンドイッチパネルが延焼の原因となり、72名が死亡……日本でも省エネルギー型ビルの推進が進んでおり、木材やサンドイッチパネルの使用が増加する可能性がある。
2018年には名古屋市で高層集合住宅の火災が発生し、外壁のサンドイッチパネルが延焼に寄与したとされる。今後は、大規模火源に対して炎上する可能性のある材料の使用を禁止または抑制するための具体的な対策が求められている」と。
日本は地震国で耐震強度や防火防災の基準は厳しく、火災報知器の設置や防火壁、避難経路の確保・義務づけなどが進み、高層住宅はもちろん中低層集合住宅でも隣家への延焼が食い止められるケースは多い(ただし、築年が古い建物では不備なものも)。
今日の中国は、経済力を背景に高層集合住宅が林立する地域は少なくないが、基本的には地震リスクは低く、高層建物そのものの安全基準も消防基準も、日本と比べれば低いことは想像に難(かた)くない。
香港で消防安全の基準が大幅に更新されたのは2007年7月だが、今回の宏福苑の築年は40年以上前なので、新基準が適用されていなかったのか、あるいは適用に備えた“修繕”が発端だったのか、今後の検証にも注目したい。
〈2025. 12. 01. by Bosai Plus〉

