「ケア付き高齢者住宅」の災害時相互応援協定と
介護施設のBCP
●立地点在の特性を活かして、広域相互応援協定
介護施設利用者に高まる災害への不安の声に応える
昨今の自然災害の激甚化や、東日本大震災などの過去の災害時の経験、さらに南海トラフ地震、首都直下地震等大規模地震等の自然災害が近い将来に発生することが予想されるなか、ケア付き高齢者住宅の入居者・家族などからの不安の声が大きくなっている。また、大規模地震だけではなく、大型台風により被害を受けたケア付き高齢者住宅事例などを見聞するなかで、ケア付き高齢者住宅事業者とその職員・スタッフは防災対策の検討を迫られている。


こうした声を受け、また事業者としての対策検討を経るなかで、本年6月、東京都住宅供給公社(東京都渋谷区)、神奈川県住宅供給公社(神奈川県横浜市)、兵庫県住宅供給公社(兵庫県神戸市)、広島県住宅供給公社(広島県広島市) (以下「4公社」)は、広域的かつ包括的な連携・協力協定を締結した。
ケア付き高齢者住宅を経営・運営している4公社は、それぞれの「ケア付き高齢者住宅」(介護付有料老人ホーム)の立地が地理的に点在している特性を活かし、自然災害が発生した際に被災した公社のみでは十分な応急対策や復旧対策を実施できない場合、または災害の発生するおそれがある場合に、4公社間で相互応援しようというものだ。


同協定は、4公社が「ケア付き高齢者住宅」において相互に連携・協力を図る意識を醸成し、自然災害が発生した際に「ケア付き高齢者住宅」の特性に合わせた食料、飲料水、介護用品、その他の生活必需品の提供や、施設機能維持に必要な資機材・物資の提供、応急対策などを適切、迅速に行えるよう連携・協力する内容としている。
また協定の締結を機に、今後は災害派遣経験者の講演や勉強会の開催、各施設の防災対策の状況を共有するなど、実践的取組みを行うこととしている。
ちなみに、各事業者の施設数は、東京都住宅供給公社が施設数1、神奈川県住宅供給公社が施設数6、兵庫県住宅供給公社が施設数2、広島県住宅供給公社が施設数1で、合計施設数は10、戸数は1618、介護床数は239。
住宅供給公社4社:「ケア付き高齢者住宅」の災害時の相互応援に関する広域的かつ包括的な連携・協力協定を締結
● 介護施設のBCPには日頃の訓練が欠かせない
災害時には自然と体が動き出すレベルまで訓練内容を高めよう

ひるがえって、一般社団法人日本医療福祉建築協会(JIHa)では、『わたしとみんなをまもる介護施設の防災・減災ガイド』をホームページ上で公開(ダウンロード可)している。
これは介護施設などで働く人たちが知っていてほしい知識を厳選して掲載したガイドで、近年の自然災害で被災した介護施設の調査や施設職員へのインタビューに基づいて、具体的な防災・減災対策をわかりやすく示したもので、同協会が厚生労働省の補助のもと調査研究委員会を設置してまとめたものだ。
『介護施設の防災・減災ガイド』は、災害時の事業継続計画(BCP)には日頃の訓練が欠かせないとし、訓練を行いながらBCPの鮮度を常に保ち、災害時には自然と体が動き出すレベルまで訓練の内容を高めようと促し、冒頭、「命をまもる3つの心構え」を掲げている。
それは、「自分の命をまもる」(災害時を想定した備えを)、「利用者の命をまもる」(自力では逃げることができない人びと全員を無事に避難させるためには災害に対する備えと訓練が必要)、「他人任せにせず、自ら行動を」(現場職員の指揮系統は常時明確化しておき、災害時には迅速に対応)の3つだ。
日本医療福祉建築協会:わたしとみんなをまもる 介護施設の防災・減災ガイド
介護施設などの社会福祉施設は一般的に、地価の安いところに立地しがちで、地価が安いということは自然災害のリスクも少なくないところが多くなる。東日本大震災での東北3県で見ると、福島県では内陸の地価が安いために内陸部に福祉施設が建てられ、岩手県ではリアス地形で平場の低いところは地価が高いので高台や山腹などに建てられ、結果的に津波からは安全だった。
しかし宮城県は、繰り返し津波被害を受けて沿岸部の海に面した地区の地価が安く、結果的に福祉施設が沿岸部に集中して建てられ、大きな被害を受けた。経済合理性から、災害リスクのあるところに施設を建てる、建たせてしまう施策が優先されてきたという現実があり、これを“災害資本主義”と揶揄する向きもある。
〈2025. 10. 18. by Bosai Plus〉