「100年先も安心」をめざして
2050東京戦略〜もっとよくなる
「災害の脅威から都民を守る世界で最も強靭な都市東京」
―“東京=安全”の一極集中に死角はないか……
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都民の生命と暮らしを守り、首都東京の機能や経済活動を維持する
予算が潤沢な都ならでは――“想定外への想像力”対応も期待
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東京都は、「すべての『人』が輝き、一人ひとりが幸せを実感できる『成長』と『成熟』が両立した『世界で一番の都市・東京』を実現するためとして、「2050東京戦略 〜東京 もっとよくなる〜」をとりまとめ、8月1日に公表した。
「2050東京戦略」は、2050年代にめざす東京の姿「ビジョン」を実現するため、「2035年に向けて取り組む政策」をとりまとめた、都政の新たな羅針盤だとしている。
また、「2050東京戦略」では、「災害の脅威から都民を守る世界で最も強靭な都市東京」を描いているとし、都民の命と暮らしを守り、災害の不安を感じずに暮らすことができる東京になったと実感できるように、政策目標を掲げて取組みを推進していく。そして、気候変動により激甚化する風水害や切迫する大規模地震などの自然災害に対しても、都民が不安を感じずに暮らせるまちをめざす、としている。
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「TOKYO強靭化プロジェクト」 アップグレード進行中
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いっぽう東京都は、関東大震災から100年の節目となる2023年度からの10年間で総額6兆円を投じ、防潮堤のかさ上げや調節池の整備を進めている。そこで打ち出されたのが災害に備える「TOKYO強靱化プロジェクト」だ。東京都は先ごろ、「TOKYO強靱化プロジェクト upgradeⅠ〜100年先も安心」を目指して」で、2040年代にめざす姿や方向性として、これまでの取組みによって得られた成果を取りまとめ公開した。
「TOKYO強靭化プロジェクト upgradeⅠ〜100 年先も安心を目指して」

それによると、住宅の耐震化率は全国平均を上回り、92%にまで向上、下水道管路の耐震化率は約81%に達し、全国平均を大きく上回る水準、都市機能が集中するセンター・コア・エリア内の都道における無電柱化は概ね完了。
また、水害対策としては水害が多発する神田川流域の安全向上のため計画された「環状7号線地下調節池」事業が進められていて、地下57mの地下にある調節池には、神田川、善福寺川の洪水約54万立方mを貯留することが可能となっている。
ほかに、新規事業として仙川第一調節池(仮称/小金井市や武蔵野市などを流れる1級河川・仙川に整備)の基本設計着手で貯留量は約4万立方m、年超過確率(災害の発生頻度・確率を示す指標)20分の1規模の降雨に対応する。また、内水氾濫の備えとして芝浦排水機場(港区)などの機能を強化する。
防災意識の醸成に向けた事業も進め、地域防災の主体となる町会や自治会を対象に不足している備品の購入にかかる経費を全額補助するほか、都内の木造住宅密集地域にある32万世帯に対し「感震ブレーカー」を配布(両事業で30億円を計上)。東京消防庁本部庁舎を改築し、規模を拡大した新本部庁舎は2100年まで使用できる庁舎にする方針。
そのほか、被災時の物資輸送を想定した道路を整備するほか、環境対策については、脱炭素などに関する施策を重点強化。太陽光パネルの設置も義務化した。
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東京防災(首都圏も運命共同体)の“死角”にも目配りを
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「TOKYO強靭化プロジェクト」は、「風水害」、「地震」、「火山噴火」、「電力・通信等の途絶」および「感染症」の5つの危機(+複合災害)に対して、都民の安全・安心を確保できる強靭で持続可能な都市を実現するとして、副題「『100年先も安心』をめざして」としている。
東京の首都直下地震等に対する被害想定は10年間で大きく減少している。住宅の耐震化率は2012年からの10年間で10%以上進み、2022年時点で92.0%となり、建物の倒壊など揺れによる死者数が2000人程度減少するなど、大きな減災効果が見込まれている。
木造住宅密集地域等における老朽建築物の除却や建替え等を支援し、市街地の不燃化を進め、2023年時点で不燃領域率66%(参考値。不燃領域率が70%を超えると延焼による焼失率はほぼゼロとされる)。また、豪雨や台風時に増えた川の水をためておく調節池等、河川整備を計画的に進めてきた結果、同規模の台風時の浸水被害を比較すると50年前から激減、調節池は2024年度末時点で約268万㎥分が稼働している。


このように、数値・データ上の成果は着実に向上していることは確かなようだ。ただ、防災・減災を考えるうえで、想定外――想定を超える自然災害のパワーを過小評価してはならないだろう。大災害発生前の“災間”(静穏期)にあって、事前の備え・施策はもちろん重要だ。しかしその施策の成果を強調するあまり、「世界で最も強靭な都市東京」を“安全神話”にしてはならない。
関東ローム層という災害脆弱性の高い地盤の首都圏にあって、東京だけが安全ではあり得ない。いや、むしろ東京が首都圏のアキレス腱にもなり得る。東京一極集中、張り巡らされた地下街・地下交通網、湾岸沿いの超高層ビルの林立、大商業街の過密群衆による“群衆なだれ”――東京の強靭性の“死角”への目配りも十分に考慮されてこそ、想定外を乗り越える防災・減災対策となるはずだ。
〈2025. 08. 16. by Bosai Plus〉