「協力防災士」が“ガヤガヤ会議”
人口減少・少子高齢化に抗う防災
人口減少・少子高齢化に悩む地方自治体の
“防災士・若年層を巻き込むガヤガヤ会議”とは…
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「飛騨市避難所運営協力防災士制度」 2023年度からスタート
「協力防災士認定書」を授与、防災士が誇りをもって意欲的に活動
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防災士資格取得者が30万人(累計)を超え、防災士の活用が社会的な注目を集めている。その背景に、近年、自治体が自ら研修機関となって住民の防災士資格取得費用を税金で補助するケースが増えていることがある。その取得要件として資格取得後、自治体の地域防災計画への協力・参画を要件とするケースが増えているという。
WEB防災情報新聞(2025年3月15日付け):防災科研 防災士との共創を議論〈前編〉
WEB防災情報新聞(2025年4月5日付け):防災科研「防災士との共創」【 続編 】
岐阜県飛騨市は、人口約2万1500人の小さな市で、周囲を北アルプスなどの山々に囲まれ、総面積の約93%を森林が占めるなど豊かな自然に恵まれた地域。また、豊富な自然資源のほか、ユネスコ無形文化遺産である古川祭・起し太鼓、ノーベル物理学賞の受賞に寄与した「スーパーカミオカンデ」を始めとする宇宙物理学研究施設、大ヒットアニメ映画「君の名は。」のモデル地となった田舎町の風景など、多彩で個性豊かな地域資源の宝庫でもある。いっぽう近年、ゲリラ豪雨や線状降水帯による短時間の激しい雨により、飛騨市でも河川氾濫、国道やJR線への大規模な土砂崩れなどの被害が発生している。
そこで飛騨市では、これまでの被災の経験や地域の特性を活かしながら、独自の防災力強化の取組みを推進して、国、全国自治体からの注目を集めている。
人口減少と高齢化が加速するなか、岐阜県飛騨市では、職員の減少に加えて、市外から通勤する職員も多いことから、「不特定多数」の避難者が押し寄せる指定避難所を職員だけで運営することは困難となっている。また、能登半島地震等の経験から災害関連死を防ぐために「避難所の生活環境改善」が求められていることから、飛騨市では市内在住・在勤の防災士と職員が協働で指定避難所の運営を行う「飛騨市避難所運営協力防災士制度」を2023年度からスタートした。現在77名が協力防災士として登録し、中学生と協力防災士による大規模な避難所訓練を行うなど人材育成に力を入れている。


「協力防災士制度」は地域に貢献したい、自分の経験や知識、スキルを避難所運営に活かしたいという思いのある防災士が力を発揮できる仕組みで、これまでに独自の避難所運営訓練を行い、訓練終了後には「協力防災士認定書」を授与、誇りをもって意欲的に活動できるように工夫しているというのだ。
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訓練企画段階から防災士参画〜「飛騨市避難所運営協力防災士制度」
地元中学生も巻き込みながら、若年層の防災意識向上も促進
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飛騨市では、今秋11月15日に大規模な避難所運営訓練を開催予定で、これまでは行政主導で訓練内容を企画していたが、市の初めての試みとして、防災士の「主体性」と「当事者意識」の醸成を目的に訓練の企画段階から防災士が参画。さらに、防災士のほかにも消防団や各行政区役員、各種団体との意見交換、相互応援の仕組みづくりを仕掛け、さらに地元中学生の意見も取り入れながら、若年層の防災意識向上を促進するという。
これに先立ち、来たる8月8日、NPO法人レスキューストックヤード(RSY)の栗田暢之・代表理事を講師に迎えて、栗田講師からのアドバイスを受けたり、実災害における避難所の実情を学び、協力防災士自らが11月の訓練企画に関する「ガヤガヤ会議」を開催する。

飛騨市防災士会は、約300人の会員が所属する市内最大級の防災組織で、避難所の開設支援や要配慮者への声かけ、市からの「避難準備情報」や警戒レベル発令にあわせて各地域で迅速に行動を開始し、災害時の初動支援にも重要な役割を担う。
ちなみに、飛騨市では、2022年7月から「警戒レベル3(高齢者等避難)」が発令される前に、市独自の「避難準備情報」を通知することとしている。この情報が出たら、避難の準備を開始し、高齢者や子ども連れなどに早めの避難を促そうというものだ。

「協力防災士制度」、市独自の「避難準備情報」、「ガヤガヤ会議」など、飛騨市の防災アイデアは実効性に満ちたユニークなものばかりだが、これだけにとどまらない――
地方都市の少子高齢化の大波を乗り越えるアイデアとして、高校生・中学生の起用・活躍への機会提供も特筆される。例えば、高校生防災士の防災訓練時での講座講師への起用、市民の防災意識向上や知識習得のための広報や出前講座への起用。高校生防災士が、「防災の学びは、命を守る一生もののスキル。ぜひ一緒に学びましょう!」と呼びかける。

また、中学生もプロの料理人と炊き出しの訓練を実施、学校の調理室で200食を調理する訓練も行うなど、実践を通じながら、災害関連死の予防にもなる「避難所での食事、メニューづくり」などについて学んでいる。


飛騨市危機管理課の吉川慶さんは、「急速な人口減少、少子高齢化という社会構造の変化にどう向き合うか。全国の自治体に共通する課題です。旧態依然の防災施策はもはや通用しない。時代の変化に併せ柔軟な発想で市民と対話しながら地域事情にフィットする防災体制、仕組みづくりが必要で、“攻めの防災”に尽きる。持続可能な地域防災のカギは子どもたちで、今後はこれまで以上に学校と連携し防災の担い手の育成に努め、女性、子どもたちを巻き込みながら、今後も“攻めの防災”にこだわります」と話している。
〈2025. 08. 02. by Bosai Plus〉