群発地震―条理と不条理の相克
“限界ふるさと”離島、静穏を祈る
南北160kmの鹿児島県十島村が日本の縮図にも見える
― 群発地震で島民の島外避難が…
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群発地震の原因不明―火山活動の影響? “流体プロセス”の影響?
JAMSTEC の分析 「(火山活動なら)巨大噴火に備える必要も…」
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鹿児島県十島村のトカラ列島近海を震源とする群発地震が6月下旬から続いている。7月14日現在、福岡管区気象台によると、6月21日から7月14日午前8時までの震度1以上の地震回数は2006回(最大震度6弱が1回、5強が3回、5弱が4回、4が46回、3が139回、2が496回、1が1317回)となった。
気象台は「日によって地震回数に差はあるものの、目立って減っているとは言えない状況」だとしている。政府の地震調査委員会や気象庁は「当分の間、震度6弱程度の地震に注意が必要」と警戒を繰り返し呼びかけている。
この地域の群発地震は過去にもあったはずではあるが、離島ゆえ観測体制が整っていなかった。気象庁によれば、近年では1995年12月、2000年10月、11年3月、21年12月、23年9月などにも数週間から数カ月群発地震が起きている。
トカラ列島は、フィリピン海プレート西縁部分が大陸プレートの下に沈み込む「琉球海溝」に沿って並んでいて、地震が多い地域であることは確かだ。この地震活動が火山活動と関係するのかはわかっておらず、令和6年能登半島地震のようになんらかの“流体プロセス”(熱水、地下水、ガス、マグマ)の影響で群発活動が起こっている可能性も否定できない。
いっぽう、この地震活動が、火山活動によって活発化していると仮定すると、火山学の視点からは次のような可能性が考えられるという。以下、海洋研究開発機構(JAMSTEC ジャムステック)による分析を紹介する。
――トカラ列島は屋久島と奄美大島の間に挟まれた有人島(7島)と無人島(5島)からなる。小宝島と宝島は隆起石灰岩からなる島で、変質した火砕岩類も見られる。口之島、中之島、諏訪之瀬島は活火山(概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山)で、悪石島(あくせきじま)は約10万年前以降、横当島(よこあてじま/十島村最南端の島)は数万年前以降の新しい火山とされる。
新しい火山である諏訪之瀬島と横当島間の距離は約117㎞であり、その間に悪石島、小宝島、宝島がある。現在、この周辺は、トカラ列島の火山フロントにおける異常に長い火山空白域である。トカラ列島の場合、ユーラシアプレートにフィリピン海プレートが沈み込むという環境において、活火山と、とても広い火山の空白域が共存するということは考えづらく、諏訪之瀬島と横当島の間の地下深部(マントル)においてもマグマを生成するホットフィンガー(熱いマントルが部分融解している箇所)が存在することが十分予想される。
もし諏訪之瀬島と横当島の間のマントルにホットフィンガーが存在しているならば、数万年、または10万年以上マントルから一次マグマとガスが供給され続けていたことになる。このマグマが地殻を溶かし続けて膨大な量の二次マグマとガスが蓄積している可能性もある。この二次マグマが一気に噴出した場合、膨大な量の軽石と火山灰が爆発的に噴出し、大きな陥没地形(カルデラ)を形成するような巨大噴火となることも考えられる。
トカラ列島で起こっている地震は地殻内に震源があり、これまで記録されたことのない頻度と強度の地震である。地殻内に蓄積したマグマとガスを起因とした地震活動であれば、噴火に備える対応も必要かもしれない。しかし、あくまで現時点での一つの考察であるため、今後の総合的な調査観測が不可欠である――
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島民の島外避難体制は整備されているが――
群発地震+火山噴火に警戒 南トラ巨大地震誘発の懸念は?
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トカラ列島では6月21日から、悪石島を中心に地震活動が活発になって毎日のように地震が頻発して住民らの不安が増していたことから、十島村では小中学生を含む希望者は7月4日以降、鹿児島市に避難を開始した。そうしたなかで7月6日午後4時13分ごろ、悪石島で震度6弱の大地震が発生、地震の規模はマグニチュード(M)5.5だった。悪石島では同日午後2時1分ごろと、その6分後に続けて震度5強の地震を観測していた。

震度6弱発生時に島内にいた住民は全員無事だったが、島外避難が促された。7月14日現在、悪石島からは49人、小宝島から15人が鹿児島市内に避難している。こうした状況により、避難住民の心理的なケアが重要視され、看護師が派遣され、体調確認や心身ケアも行われている。
幸い群発地震による人的被害や大きな建物被害は発生していない。また、これまで地震発生のたびに「津波の発生はない」とテレビなどの速報が出るが、これまで津波の発生はない。津波対策として両島とも住宅地や学校などの公共施設は高所に位置しており、津波が発生した場合の即時避難は可能だとされている。また、十島村では防災無線や気象庁の警報システムを利用して、津波警報の発表後に迅速な避難を呼びかける体制にあり、平時には防災訓練も頻繁に行われてきた。
島内には避難所も設置され、生活が継続できる環境を整備しており、島外避難中の小中学生はもタブレット端末を使用してオンラインでリモート授業を受ける仕組みが導入されている。
万一の火山噴火対策としてこれまで避難計画が常に更新されてきた。また、火山活動の兆候を観測するための地震計や傾斜計が設置され、気象庁と連携してデータを収集しており、火山活動が活発化した際には、島外避難が迅速に行えるよう村営フェリーや臨時のヘリコプターの用意があるという。

トカラ列島近海での地震は、基本的なメカニズムは推定されているものの、未解明なことは多い。前段のJAMSTECの分析にあるように、トカラ列島の地下に高熱のマグマが溜まっている可能性はあるが、気象庁によれば火山性地震の特徴は観測されていないという。ただ、悪石島の北東に位置する諏訪之瀬島の噴火警戒レベルは「2」で、トカラ列島周辺で今後海底噴火を含む火山活動にも警戒が必要だ。
地震調査委員会は一連の地震を「火山地域の地震活動」と位置づけ、長期化への備えを呼びかけている。
なお、南海トラフ巨大地震との関連については、気象庁南海トラフ地震評価検討会・平田直会長が7月7日、個人的な見解としたうえで「ないと思っている」と述べ、「30年以内発生確率80%の巨大地震の発生可能性のほうが高い状態」としている。
〈2025. 07. 15. by Bosai Plus〉