首都圏の基礎的防災力強化と
災害時の被害最小化に向けて
首都圏巨大災害対策、防災拠点整備、密集市街地の改善、
避難行動支援などはいま…
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2025年版「首都圏白書」(2024年度首都圏整備に関する年次報告)より
「確固たる安全、安心の実現に向けた基礎的防災力の強化」
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国土交通省が首都圏整備法に基づいて首都圏整備計画の策定と実施に関する状況について、毎年国会に報告する「首都圏白書」の2025年版(2024年度首都圏整備に関する年次報告)がとりまとめられ、5月27日公表された。
本年の「首都圏白書」は、「地域生活圏の形成」、「二地域居住等の促進」、「関係人口の拡大」といったトピックごとに、次の6節構成で首都圏の取組み事例を紹介している。
第1節:人口・居住環境・産業機能の状況、第2節:確固たる安全、安心の実現に向けた基礎的防災力の強化、第3節:面的な対流を創出する社会システムの質の向上(コラム1: 「地域生活圏の形成・二地域居住等の促進」)、「第4節:国際競争力の強化」、「第5節:環境との共生」、「第6節:首都圏整備制度と東京一極集中の是正(コラム2:「東京圏におけるなりわいと住まい」)。

「地域生活圏の形成」、「二地域居住等の促進」、「関係人口の拡大」、「東京一極集中の是正」などそれぞれ防災の視点からも興味深いトピックスだが、本項では、このうちとくに、「第2節:確固たる安全、安心の実現に向けた基礎的防災力の強化」に絞って取り上げる。
国土交通省:2025年版「首都圏白書」をとりまとめ(2024年度首都圏整備に関する年次報告)
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確保たる安全・安心の実現に向けた基礎的防災力の強化―
計画、ガイドライン改定、整備は“進捗”―課題、死角は?
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「第2節:確固たる安全、安心の実現に向けた基礎的防災力の強化」では、首都圏における巨大災害対策、防災拠点整備、密集市街地の改善、避難行動支援、火山災害対策、水害対策などが取り上げられている。
○巨大災害対策としては、首都直下地震対策特別措置法に基づき、減災目標として死者数(想定最大死者数約2万3千人)や建物全壊数(同約61万棟)の半減を掲げた「首都直下地震緊急対策推進基本計画」が策定され、具体的な応急対策活動計画も進められている。
○首都圏で約800万人が想定される帰宅困難者対策では、原則3日間の一斉帰宅抑制を基本とし、分散帰宅を促すガイドラインが改定された。また、内閣府や地方自治体による訓練や啓発活動が実施されている。
○防災拠点整備では、地方公共団体の庁舎耐震化率が97.7%に達し、非常用電源の設置も進んでいる。広域的な防災活動の核となる東京湾臨海部基幹的広域防災拠点(東扇島地区、有明の丘地区)では、運用体制の強化が進められている。
○密集市街地の改善では、「地震時等に著しく危険な密集市街地」の解消をめざし、老朽建築物の除却や公共施設の整備が進められている(都県別では神奈川県が首都圏の約7割を占める)。東京都では「TOKYO強靭化プロジェクト」で不燃化対策や耐震化を推進。
○避難行動支援では、避難所の確保や物資支援のための民間機関との応援協定が増え、都市再生緊急整備地域では安全確保計画が策定されて、一時滞在施設の確保も進む。
○火山災害対策では、活動火山対策特別措置法が改正され、富士山広域降灰対策ガイドラインが策定された。住民の基本的な行動指針や備蓄の重要性が強調されている。
○水害対策では、治山事業や治水事業が進められ、流域治水プロジェクトが13水系で策定された。洪水や内水氾濫への対策としては堤防整備率が69.7%に達し、高潮対策も進められている。ハザードマップの整備や地域インフラ群再生戦略マネジメントが推進され、災害リスク情報の充実が図られている。
これらの取組みにより、首都圏の防災力を強化し、災害に対する安全・安心を確保することをめざすとしている。


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「著しく危険な密集市街地」 首都圏では神奈川県に7割
「危険密集市街地」解消へ “ガワ”と“アンコ”両面整備作戦
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前段の「○密集市街地の改善」で、「著しく危険な密集市街地」という語句が出てきたが、これは国土交通省が2012年10月に公表した「地震時等に著しく危険な密集市街地」に基づくもので、密集市街地のうち、「延焼危険性または避難困難性が高く、地震時等において最低限の安全性を確保することが困難な著しく危険な密集市街地」を言う。

密集市街地整備の阻害要因としては、狭小敷地、接道不良敷地、借地・借家等の権利関係の複雑さ、地権者の高齢化など多様だ。そのなかで、地方公共団体でのマンパワー・財政面の厳しい状況下で、街区外縁部(いわゆる“ガワ”)での一定規模の道路・公園整備や共同建替えなど、従来からの骨格的な公共投資型の整備が続けられている。
また、条件不利敷地等が集積し整備改善の遅れている街区内部(いわゆる“アンコ”)を改善するためには、規制誘導手法の活用等のきめ細かな整備方策や、民間活力の活用を併用することが有効とされている。
ちなみに国土交通省・国土技術政策総合研究所(国総研)では、『密集市街地におけるきめ細かな整備事例集』を刊行し、接道不良、複雑な権利関係などの整備阻害要因に対し、規制誘導、地域防災の取組などハード、ソフトの手法を活用した“アンコ(” 街区内部)を中心に整備した事例を、近畿圏の19事例を含めて紹介している。
〈2025. 06. 05. by Bosai Plus〉