魚種・漁場の位置、沿岸の海洋環境等にも
影響を与え得る “猛暑”には…?
● 「大蛇行」は異常現象ではないが、漁業、海洋環境などへの影響は大きい
気象庁は5月9日、日本の太平洋側を流れる暖流の黒潮が大きく南に曲がる「黒潮大蛇行」が2017年8月から続いてきたが、5月8日現在みられなくなり、この状態が持続して大蛇行が終息する兆しがあり、終息する見通しになったと発表。黒潮の流路は、船舶の運航や、魚種・漁場の位置、沿岸の海洋環境等にも影響を与えるとし、留意を促している。

1:非大蛇行接岸流路 2:非大蛇行離岸流路 3:大蛇行流路
気象庁によると、黒潮は2017年8月以降、紀伊半島から東海沖で大きく離岸して流れる「大蛇行」の状態となり、その継続期間は2025年4月中旬までで、およそ7年9カ月と過去最長となっていた(下表)。
▼1965年以降の黒潮大蛇行の発生期間(長いほうから、期間と継続月数)
① 2017年8月〜 7年9か月(2025年4月時点)
② 1975年8月〜1980年3月 4年8カ月
③ 1981年11月〜1984年5月 2年7カ月
④ 1986年12月〜1988年7月 1年8カ月
⑤ 2004年7月〜2005年8月 1年2カ月
⑥ 1989年12月〜1990年12月 1年1カ月
黒潮には、大きくわけて2つの流路がある。ひとつは日本の南岸に沿って流れる「非大蛇行流路」、もうひとつは紀伊半島から東海沖で大きく南へ蛇行する「大蛇行流路」。専門家によると黒潮の大蛇行は異常な現象ではなく、一定の条件によって発生する流路だという。黒潮の流路の幅は約100km、深さは約1000m、流速は速いところで毎秒2m以上に達し、水量は1秒間に2000万〜5000万トンで、アマゾン川の水量の200倍以上に相当する。
黒潮が流れる日本付近の海域は同じ緯度のほかの海域よりも水温が高く、降水の原因となる大量の水蒸気が発生して大気の状態が不安定になりやすいいっぽう、暖流である黒潮はマグロやカツオといった暖水を好む海の幸をもたらす。また黒潮は、その下流となる黒潮続流とともに、大気から海洋内部へ二酸化炭素を送り込み気候変動の抑制にもつながる重要な役割を持つ。

2023年の北日本の記録的な暑さの原因とされる「海洋熱波」は、黒潮続流の北上によって発生したと考えられているほか、海域を代表する魚(後段参照)の不漁や海洋生態系への影響も指摘されることから、「黒潮大蛇行」の終息があるとすれば(気象庁はさらに監視を続ける)、近年の酷暑やサンマ・サバ不漁に、いささかの朗報となる可能性がある。
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●おさらい――「黒潮」と「親潮」と
様々な水産物に恵まれた日本周辺の水域―この環境を大切にしたい…
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黒潮は、東シナ海を北上して九州と奄美大島の間のトカラ海峡から太平洋に入り、日本の南岸に沿って流れ、房総半島沖を東に流れる海流。黒潮流路の動向は船舶の経済運航コースを左右するほか、漁場の位置や沿岸の潮位を変化させる要因の一つ。このため、船舶運航や漁業の関係者などにとって、黒潮流路の変動は大きな関心事となる。
親潮は、太平洋側を北東から南西方向に流れる千島海流。黒潮と混同しやすいが、親潮は塩分濃度が低く、黒潮は高い。そのため「親潮は甘く、黒潮は辛い」と表現されることがある。また、親潮は栄養分が多く、黒潮は比較的少ないので、親潮ではプランクトンが大量に発生し、太陽光の反射で濁った茶色となる。
「親潮」という名前も、栄養分を多く含んだ水が魚や海藻の成長を促すことから。北海道から東北地方にかけて有名な漁港が多いのも、沿岸を栄養分を多く含んだ親潮が流れているからだ。

〈2025. 05. 16. by Bosai Plus〉