最悪想定の千変万化、半島防災を
いかに地域防災計画に反映するか
個別自治体の、そして個々人の“浮沈”に関わる
「いつでもどこでも起きる」活断層地震
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阪神・淡路大震災契機の被害想定策定から27年後の見直し
東日本大震災後の最悪想定試算で 想定被害は ザッと200倍に!
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石川県が地震の被害想定を27年ぶりに見直し(前回の被害想定は1998年3月)、去る5月7日に公表した。最近、南海トラフ巨大地震の被害想定見直しが行われたばかりだが、被害想定は自治体が地域防災計画を策定する前提になるものであり、自治体の事前防災に欠かせない備えの要件となる。


もちろん、被害想定はあくまで“最悪想定”ではあるが、石川県の前回の地震被害想定では、奥能登に最も大きな被害が出るケースで、死者は7人、建物の全壊は120棟としていた。ところが、昨年1月の「令和6年能登半島地震」では、本年4月末時点で、直接死の死者は228人、全壊は住宅だけで6151棟となっていて、想定とリアルの被害の大きな落差について、その不十分さが指摘されていた。
もっとも、県防災会議の委員は、東日本大震災が起こった2011年以降、何度も“最悪想定”での見直しを提案していたというが、県が見直しに着手したのは、珠洲市で2021年9月に震度5弱、22年6月に震度6弱を観測するなど群発地震が活発化し警戒感が高まった2023年8月からで、その5カ月後に24年元日の地震が発生するという“不運”もあった。
県は見直しが遅れた理由を、国の地震本部による活断層の長期評価の結果を待っていたためとした。

令和6年能登半島地震を引き起こしたとされる能登半島沖の活断層については、その存在は指摘されていたが、詳しい地震の規模や発生確率などの評価が遅れていたため、この評価を待っていた石川県の地震被害想定も更新されていなかったというわけだ。地震本部ではこうした経緯を重視、能登半島地震を受けて活断層の長期評価の公表予定を早め、2024年度から順次、これまでより簡易的な方法による評価結果でも地域のリスクとして公表することとし、24年8月に公表した。結果論だが、2024年1月の能登半島地震前に警鐘を鳴らすことはできなかった。
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石川県 被害想定見直しの特徴――被害大幅拡大、災害シナリオ多彩
時(元日)と場所(半島)を選ばずに突然動く活断層
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石川県が今回見直した被害想定の特徴として、冬の朝5時で強風の場合、前回と比べて死者は184倍の1286人、建物の全壊・全焼は198倍の2万3816棟になるとしたことがあげられる。そして、能登半島地震が元日に発生したことを踏まえて、災害シナリオとして帰省者や観光客が多い「正月の夕方6時」「ゴールデンウィーク・昼」などを含む5つのケースを設定、特定の時期の人の移動パターンを考慮した被害想定が行われていることも特徴的で、観光客や帰省者の増加が避難計画に与える影響も考慮されている。


また、「多様な地震想定」で、森本・富樫断層帯や邑知潟(おうちがた)断層帯など、石川県内外の活断層を対象とした9つの地震シナリオが分析され、それぞれの地震による被害予測を評価した。能登半島北岸断層帯のケースでは、奥能登2市2町すべてで震度7が予想されるなど、県内すべての自治体でいずれかの断層で地震が発生した場合に震度6強以上の揺れになると試算。さらに、地震による液状化危険度や崖崩れの予測が行われており、特に沿岸部や山間部では深刻な影響が出る可能性を指摘した。
さらに、建物倒壊、火災、避難者の数などの人的被害の想定に加え、電力や水道、通信、交通網への影響も評価。震度7の揺れが発生した場合、広範囲にわたるライフラインの停止を予測。防災対策として、建物の耐震化や家具固定、初期消火対策が被害軽減にどれほど役立つかも試算している。
●金沢市の地震リスク評価
金沢市の地震リスク評価では、森本・富樫断層帯を震源とする地震が最も大きな影響を与えると想定。この断層帯で冬の朝5時に地震が発生した場合、死者2212人を見込む。
自治体別では金沢市が1788人で8割以上を占め、白山市が182人、津幡町が68人、野々市市が61人、内灘町が58人と続く。
金沢市周辺では震度6強〜7の揺れが想定され、特に軟弱地盤の地域では被害が拡大する可能性を指摘。沿岸部や河川沿いでは液状化の危険度が高く、宅地の沈下やインフラの損傷を予測。森本・富樫断層帯で冬の午後6時に地震が発生した場合、火災の危険とともに、積雪の重みで倒壊する家屋が増えることも考慮し、4万6947棟が全壊・全焼、5万5359棟が半壊すると予測。
石川県内の6軒に1軒が全半壊、金沢市に限ってみれば、36%の建物が全半壊する計算となる。

地震被害想定や地震発生確率は自治体の災害対策に直接的に反映されるだけに社会・経済的影響は大きい。被害想定は国の浮沈に関わる広域巨大地震に高い関心が集まる。しかし、個別自治体の、そして個々人の“浮沈”に関わる「いつでもどこでも起きる」活断層地震を忘れてはならない。
自治体の被害想定見直しの根拠となった地震本部の活断層評価の見解を引用する――「地震発生確率値が小さいように見えても地震が発生しないことを意味していない。日本全国どこも危ないと思ってもらいたい」。
〈2025. 05. 15. by Bosai Plus〉