更新死者数 29万8千人――災害関連死 5万2千人の衝撃
熊本地震や能登半島地震では、「関連死」が「直接死」数を上回る
尊厳ある避難生活を
● 災害関連死――「避難者1万人あたり40人から80人が亡くなる」
近い将来の発生が想定される南海トラフ巨大地震について、国の被害想定が前回から10年余りたって全面的に見直された。計算方法の変化で津波の浸水域が広がり、避難が遅れた場合も想定して、最悪の場合で、死者は29万8000人と、前回の32万余りから微減となった。これまでの防災・減災への取組みの効果もあり、迅速な避難や耐震化などがさらに進むことで、犠牲者は大幅に減じるとしている。


南海トラフ巨大地震対策検討WG:被害想定について(2025年3月31日公表)
いっぽう、「災害関連死」について初めての推計が行われ、最悪の場合5万2000人と東日本大震災での関連死・3800人のおよそ13倍にのぼる可能性を指摘、避難者の避難生活環境の改善が急務とした。熊本地震や直近の能登半島地震では、揺れや津波で亡くなる「直接死」の数を上回り、災害関連死は防災対策の大きな課題として浮上している。
今回の被害想定では、過去の東日本大震災の岩手県・宮城県や令和6年能登半島地震などの例をもとに「避難者1万人あたり40人から80人」が関連死で亡くなるとして試算された。南海トラフ巨大地震被害の広域性・甚大性を考慮すると、能登半島地震でみられたような外部からの応援が困難になることや、発災後の状況によっては被災者が十分な支援を受けられずに、災害関連死のさらなる増加につながるおそれがあることが考えられるため、現時点の最大値に基づいて、推計の幅値の一つとして考慮するとしている。

阪神・淡路大震災から30年、各種災害が多発するなかで「避難所の雑魚寝環境が改善していない」と指摘され続けている。そこで、このところNPO・NGO、防災専門家、各種企業・団体が避難所運営の新たな運営方式を考案し実験・訓練に乗り出すなど、国・自治体との連携を視野に、民間の動きも始まっている。
災害関連死にはさまざまな要因があることは想像できる。だからこそ、防災庁設置に意欲的な石破茂首相には、まさに“本気”の災害・防災対策――災害関連死ゼロを目標として、安全で尊厳ある生活環境・避難生活の整備に向けて取り組んでほしいところだ。
最大クラス地震の被害想定について(定量的な被害量):災害関連死(P27〜)
●「被害の様相」―だれにでも、どこの地域でも起こりうる被害様相は…
南海トラフ巨大地震は、歴史的にはおよそ100年から150年の間隔で繰り返されている。国の地震調査委員会は今後30年以内にマグニチュード(M)8から9の巨大地震が発生する確率は「80%程度」とする。
東日本大震災の発生を受けて国は、南海トラフ沿いの地震・津波について科学的に考えられる最大クラスの揺れと津波を想定する方針(最悪想定)とし、2012年8月に揺れや津波による死者(32万人余)などの被害想定を、2013年3月に経済被害をそれぞれ公表。2014年には10年で死者をおおむね8割、全壊・焼失棟数をおおむね5割減らすという「減災目標」を盛り込んだ基本計画を策定した。
策定からおよそ10年が経過し、2023年から有識者らによる「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(WG)」(座長:福和伸夫・名古屋大学名誉教授)が被害想定の見直しに向けた議論をしてきた。能登半島地震で作業は中断、半島防災や災害関連死など大きな課題も浮上したことから教訓も取り入れるため延期され、今回の発表となっている。


ちなみに、被害想定に加えて、復旧計画なども検討していて、地震発生後の対応を「初動段階」「応急段階」「緊急復旧段階」「本格復旧段階」と分け、それぞれの時期に適切な対策を示している。
ほかにも「ライフラインの影響」(停電や断水、通信障害など)、「津波火災のリスク」(津波による漂流物や火災の発生)、「地域特性に応じた影響」(大都市、海抜ゼロメートル地帯、工業地帯、中山間地域、離島など)、「企業活動への影響」(サプライチェーン寸断)など、巨大地震・津波がもたらす社会全体への影響が詳細に検討されているので、参考資料として目を通しておきたい。
〈2025. 04. 28. by Bosai Plus〉