「すべての被災者に、安心と尊厳を。
――日本における避難所のあり方を根本から見直す」
「阪神・淡路大震災から30年、各種災害が多発するなかで、避難所の雑魚寝環境が改善していない」と指摘され続けている。そこで、このところNPO・NGO、防災専門家、各種企業・団体が避難所運営の新たな運営方式を考案し実験・訓練に乗り出すなど、国・自治体との連携を視野に、民間の動きも始まっている。

いっぽう、朝日新聞3月13日付け記事「避難所を脱雑魚寝へ 専門家がめざす抜本改革 持ち運び方式とは」によれば――
「民間企業も避難所の質の改善に動き出している。清水建設の支援を受けて今月設立予定のシェルターワン(ShelterOne/東京都江東区)だ。自治体に代わって、災害用ベッドやトイレカーなどの資機材を管理し、発災から48時間以内に避難所を設置するという事業をめざす。平時には避難所設置の訓練も行い、その地域の料理人や水道工事業者、市民ボランティアとの連携を進める。契約した自治体から、人口1人あたり年200円程度の管理・訓練委託費を受けとるというビジネスモデルをめざす」――
朝日新聞:避難所を脱「雑魚寝」へ 専門家がめざす抜本改革 持ち運び方式とは
ここで紹介されている「株式会社シェルターワン」が法人登記を完了して、避難所のあり方を変える防災スタートアップとしての第一歩を踏み出した。
その“志”を、「すべての被災者に、安心と尊厳を。――私たちは、日本における避難所のあり方を根本から見直し、災害時においても人間らしい生活を守る仕組みをつくるために、この会社を立ち上げた。これまで100年以上変わらなかった避難所環境を、SUM基準(標準化・ユニット化・機動力化 *後述)を軸とした統合運用モデルで刷新し、発災から48時間以内に生活環境を整え、災害関連死をゼロにすることをめざす」としている。
シェルターワン:新しい避難所のスタンダード創出に向けて、始動

災害対策基本法では、災害用ベッドなどの避難所開設用の物資は各自治体が備蓄することになっているが、本紙2月6日付け号で内閣府調査による「全自治体の災害備蓄状況」を報じたように、避難所の簡易ベッドや段ボールベッドの備蓄が不足していることは明らかだ。
内閣府は4月から新システム「B-PLo」(Busshi Procurement and Logistics support system=物資調達・配送システムの意)の運用を始めた。被災地の自治体職員らが備蓄量や不足する数を入力すると、国や他の自治体が必要な物資を発送する仕組みで、物資輸送時も、配送状況をリアルタイムに把握できるようにする(本紙 別項参照)。
また、国は物資を被災地に72時間以内に送る「プッシュ型支援」を強化、現在の備蓄拠点、東京都立川市の防災合同庁舎に加えて、来年3月までに全国7ブロックにベッドを1千台ずつ配備する計画を公表した。
いっぽう、医療や福祉の専門家らでつくる「避難所・避難生活学会」は去る2月、大阪市で避難所運営の改善策を討議、市町村ごとの備蓄による対応では限界があるとして、大型の備蓄拠点から持ち込む方式への転換を求める声が出た。そのなかで、同学会常任理事・水谷嘉浩氏が提案したのが「SUM方式」で、避難所生活で重要な「トイレ・キッチン・ベッド(TKB)」の品質を統一(Standard化)し、1ユニット(Unit)にして、持ち運び可能(Mobility化)にするというもの。
構想では、被災者250人、支援者50人の計300人分のTKB資機材を1ユニットとして、各都道府県に20ユニットずつ、全国で約1千ユニットの確保をめざす。これは、避難所運営で先進的なイタリアの方式を参考にしたものだ。
シェルターワンは、SUM方式を「SUM基準」(標準化・ユニット化・機動力化)とし、これを軸とした統合運用モデルで刷新、発災から48時間以内に生活環境を整え、災害関連死ゼロをめざす。
シェルターワンはさらに、災害時の避難所設営・運営支援、平時の防災訓練・教育の支援にもかかわるとしていて、国・自治体、各種企業・団体、災害ボランティアを巻き込む一大防災・減災スキームの展開を展望している。

20余年前に防災士制度が少数の“一意専心”の志から立ち上げられ、防災分野のソーシャルビジネスとして成功したように、シェルターワンの今後の動向と、防災士がこのプロジェクトにどのようにかかわるかにも注目したい。

〈2025. 04. 25. by Bosai Plus〉