明石焼

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文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 わが国で最も注視されている地震で兵庫県にも大きな影響を与えるのが南海トラフ巨大地震です。30年以内の発生確率が70~80%、地震規模はマグニチュード(以下、M)8~9クラスが想定されています。巨大地震となる可能性が非常に高いため、事前に被害を具体化させて対策を強化しなければなりません。
 内閣総理大臣を長として内閣府に事務局を置く「中央防災会議」の下に、2012年(平成24年)、「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」が設置されました。津波対策を中心にした中間報告が同年7月19日に策定され、8月29日には建物被害・人的被害の推計結果が、翌年2013年3月18日には施設や経済的な被害を第二次報告としてまとめたものが発表されました。そして2019年(令和元年)6月には建築物や人口、ライフラインなどの最新のデータに基づき、施設や経済的な被害想定の再計算が行われました(内閣府 防災情報のページ 南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)について)。ライフラインの被害想定は以下のようになっています。

・被災直後の上水道:最大約3570万人が断水。東海三県(静岡、愛知、三重)の約6~8割、近畿三府県(和歌山、大阪、兵庫)の約4~6割、山陽三県(岡山、広島、山口)2~5割、四国や九州(大分、宮崎)では約7~9割の断水。

・被災直後の下水道:最大約3460万人に影響。東海三県や近畿三府県、四国、九州二県の約9割、山陽三県の約3~7割が利用困難。

・被災直後の電力:最大約2930万軒が停電。東海三県、近畿三府県、四国、九州二県の約9割、山陽三県の約3~7割で停電。

・被災直後のガス:最大約180万戸の供給が停止。東海三県の約2~6割、近畿三府県の最大約1割、山陽三県の最大約1割、四国の約2~9割、九州二県の約3~4割で供給が停止

 上記のように断水が起これば避難者は1週間後に最大で約880万人となり、避難所への避難者は1週間後で最大約460万人、それにともなう避難所を中心とした食料不足は発災後3日間の合計を最大約2100万食と想定しています。さらに地震が平日12時に発生して公共交通機関が停止した場合、一時的にでも外出先に留まることになる帰宅困難者は中京圏で約410万人、近畿圏で約660万人に上るとしています(南海トラフ巨大地震の被害想定について(再計算)~施設等の被害より)。

 政府が発表した想定数字を踏まえて私たちがやるべきことは、「自助」の対策です。例えば断水時のトイレに備えて入浴後の風呂の水を次の入浴時までとっておく、飲み水を人数分×3日分確保しておくといった対策は比較的簡単に取りかかることができます。その他、非常時に家族がとるべき行動や避難所の確認、家族間の連絡方法などを事前に話し合っておくことが重要です。

明石焼① 1024x765 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第52回】 兵庫県「明石焼」
兵庫県「明石焼」

●料理名:明石焼(兵庫県)

 熱々の「明石焼」を食べると口の中に卵とだしの風味がふわりと拡がります。地元では「玉子焼」と呼ばれる明石焼は簪(かんざし)の副産物として誕生しました。珊瑚の簪の代用品となる人口珊瑚の「明石玉」を作るため、残った材料を無駄にしないように作られたというのが有力な説です。
 明石市ホームページ(以下、HP)「連載 明石のたからもの-10 明石焼(玉子焼)」によれば、江戸時代終わりに江戸屋岩吉が卵の白身が寒さで固まったのを見て、白身を接着剤にして硝石を混ぜて固めたツヤツヤの「明石玉」を創り出しました。見た目が珊瑚そっくりだったので手頃で美しい装飾品として明石の地場産業の一つとなりました。そしてこの時に大量に出る余った黄身を使う明石焼が誕生したのです。

 1919年(大正8年)、現在の明石市樽屋町の向井清太郎が屋台で売り始めた時には高級品として数個ずつ売っていたそうです。本場の明石焼には小麦粉と卵、タコの他に「じん粉」と呼ばれる小麦粉のデンプンを精製した粉を入れます。じん粉を入れると硬くならず、焼いてもフワフワのままです。また道具にも特徴があり、タコ焼きを焼く鉄鋳物鍋ではなく熱伝導が良い銅鍋を使用するとほどよい焼き加減になるそうです。そのため明石では専用の銅鍋を使用するお店も多いのです。
 具に入れる明石のタコにも特徴があります。明石市HP「日本一の明石ダコ(ものしりコーナー)」によれば、約2000年以上前に使用していたイイダコ捕獲用のタコツボが明石の海から発見されました。現在でも明石はマダコの水揚量が約1000トン(年)と日本一です。明石海峡の海流の流れは早く、ここで育ったタコの足は太くて短い! 陸でも立って歩けるほどだというのですから、弾力がある美味しいタコになるわけですね。

明石焼② 1024x754 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第52回】 兵庫県「明石焼」
明石焼

★ひっくり返すタイミングが難しい

 本場の明石焼には欠かせない「じん粉」ですが、全国どこでも入手可能ではないので調べたところ、コーンスターチや片栗粉、上新粉を代用として使う人も多いようです。私は上新粉を使用しました。レシピは一般社団法人明石観光協会HP「明石の味をご家庭で」を参考にしています。
 旅先で食べた記憶や見た目から卵がたっぷりと入っていることは予想していました。しかし、生地に入れるだし汁を作るのに前の晩から昆布を浸けておくなんてびっくり。さらにカツオや塩で味付けしておくという徹底ぶり。濃いだしが味の決め手なのです。そして焼いた生地をつけ汁につけて食べるのですが、つけ汁は昆布だしにカツオや薄口醤油を加えて煮立てて作ります。明石焼きはまさにだし三昧の「だしを味わう料理」といってよいでしょう。

 さて、家にあるタコ焼き機で明石焼作りに挑戦です。作ってみて困ったことは2つありました。まず、いつひっくり返していいのかタイミングが分からない。タコ焼きよりも生地が軟らかくて中々固まらないのですが、火を強くすると焼け過ぎてしまいます。結局中火と弱火で焼き上げました。そして、もう一つはいつ完成なのかがよく分からないこと。フワフワの焼きあがりをイメージしましたが中まで火が通ったか心配になりよく火を通したので、硬めのでき上がりになりました。あるいは、じん粉を使わずに上新粉を代用したせいで硬くなったのかもしれません。人により好みもありますので、初めて明石焼作りに挑戦する方は自分好みの味や硬さで食べてみてはいかがでしょうか。

〈2021. 03. 07.〉

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