「先手を打つ災害対応」へ――災害大国のわが国は
(逆に)AIの高性能化やデジタル防災技術の高度化に有利

●注目の有識者会議「1WG+4チーム」の提言を 順を追って紹介

 既報のように、国は新たな防災・減災、国土強靭化をめざす取組みとして、5つの有識者会議(以下、「WG=ワーキンググループ」)――「デジタル・防災技術WG(未来構想チーム)」、「デジタル・防災技術WG(社会実装チーム)」、「事前防災・複合災害WG」、「防災教育・周知啓発WG(防災教育チーム)」、「防災教育・周知啓発WG(災害ボランティアチーム)」でのそれぞれの検討結果を去る5月25日、同時公表した。経済財政運営の指針「骨太方針」へ反映させ、今後5~10年での実現をめざすものとなる。

>>内閣府(防災担当):防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言

 今回はこのうち、「デジタル・防災技術WG 未来構想チーム提言」(座長:安宅和人・慶應義塾大学環境情報学部教授、ヤフー株式会社CSO)と「デジタル・防災技術WG 社会実装チーム提言」(座長:喜連川優・東京大学生産技術研究所特別教授)を紹介する。

P3 1 防災デジタル「予測・対応可能性による災害マップ」(未来構想チーム) - 防災強靭化への提言<br>①デジタル防災(未来構想/社会実装)
防災デジタル「予測・対応可能性による災害マップ」(未来構想チーム資料より)

▼「デジタル・防災技術WG 未来構想チーム提言」

 「未来構想チーム」は、防災における理想の未来像を描き、そのバックキャスティング(「 ありたい姿/あるべき姿」から逆算で“いま”を考える思考法)を行うことで見えてきた課題への対応策の構想を行ったとしている。すなわち、①自然災害の十分な予測ができない、②発災直後には情報が少なく、災害対応での適切な判断が困難、③先の状況が読めず対応が後手に、④行政・民間で準備される物資や機材の量や能力が分からない、⑤「正常性バイアス」による住民の逃げ遅れ、⑥行政機関等の機能不全の可能性、⑦デジタルに不可欠な電気・通信が利用不可の可能性、といった課題が見えた。これらを踏まえ、未来構想として将来的に実現すべき「鍵となる取組み案」は――

P3 2 防災デジタル「情報・データ フロー図」 - 防災強靭化への提言<br>①デジタル防災(未来構想/社会実装)
防災デジタル「情報・データ フロー図」

(1)被災時の先読み能力を高める「防災デジタルツイン」の構築
 都市空間をデジタル上に再現し、これを動かすシミュレータを構築。被災状況の推定・可視化と、事前だけでなくリアルタイムに進行する災害への対策の有効性検討や救助キャパシティの想定に役立て、被害を最小化する

(2)安否・インフラ状況等のリアルタイムの情報共有
 民間企業が持つ情報網も活用し人の所在、安否を把握しつつ、被害推計を行う。空間・インフラについては緊急時視察ドローン網やセンサーによる情報収集を行う。これら安否・インフラ状況をリアルタイムに統合・可視化し、俯瞰可能にするとともに、安定的に動く情報基盤の構築・運用も行う。

(3)究極のデジタル行政能力の構築(行政機関等のデジタル移転・ハイブリッド化)
 立法・行政機能がその継続性とレジリエンスを高めるべく、被災時に別の物理空間ではなく、デジタル空間へと機能を移転し、リモート・分散労働対応の司令塔機能を構築

>>デジタル・防災技術WG「未来構想チーム提言」

▼デジタル・防災技術WG 社会実装チーム提言」

 「社会実装チーム」提言では、デジタル技術は日進月歩で不断の見直し・改善の必要があるとしながら、行政機関が活用している災害情報システムをベースにして、被災データの蓄積や被災者向け情報の周知など既存システムを統合した「防災デジタルプラットフォーム」の整備を求めた。
 また、スマートフォンやドローン、通信衛星など最新機器による情報収集とAIによる情報処理を組み合わせた情報収集の自動化( 防災 IoT)の整備により救助活動の迅速化や、自治体の避難判断支援、住民の避難行動サポートなどの機能の飛躍的向上も盛り込んでいる。

P3 3 デジタル改革関連法成立等で直ちに可能となる生命を守る災害対応力の飛躍的向上 - 防災強靭化への提言<br>①デジタル防災(未来構想/社会実装)
デジタル改革関連法成立等で直ちに可能となる生命を守る災害対応力の飛躍的向上(社会実装チーム資料より)

 災害大国のわが国は、防災分野でのデジタルデータ取得機会が非常に多く、とりもなおさず、わが国が防災分野におけるAIの高性能化やデジタル・防災技術の高度化に有利な条件を備えているとも言える、と力づけてもいる。

>>デジタル・防災技術WG「社会実装チーム提言」

〈2021. 07. 02. by Bosai Plus

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